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[コメント] TAJOMARU(2009/日)

チラシの文句が褒め称えるほどに、主人公に人間的魅力がないのが致命的なお伽噺。実はこの作品、テーマ的には日本人作家の愛してやまないパターンを踏襲しているのだが、その成就のためには主人公は誰もが魂を揺さぶられる好人物でなくてはならないのだ。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







男はこんな男に惚れる!女はこんな男に惚れられたい!…と、実に気恥ずかしいキャッチフレーズがチラシには横溢しているのだが、なに、この手のキャラクターは日本の伝統的パターン、「最強の無責任男」なのである。

ほら、『北斗の拳』なんかまさにそれです。街を恐怖によって支配する悪の帝王達を次々に倒し、後釜になる人物は適当に考えてもらうとして、自分はカッコつけて去ってゆくナルシスティックなヒーロー。ここで自分が責任を持ち、みなの崇めるに足る理想的なリーダーになるとすると、彼はハリウッドヒーローになってしまう。日本のヒーローは権力と無縁なアウトサイダーでなくてはならないのだ。

でも、この作品のヒーローにはみなを陶酔させる魅力に欠けている、と自分は見た。子供の頃はお節介でイモを盗んだ欠食児童に家来の地位を「与えてやる」。大きくなって、大した剣の才能も持たぬのに、盗賊団に名前で勝ってリーダーに祭り上げられる。そして悪の成り上がりを倒し、家来の年長者に勝手に名前をくれてやり、そのくせ「どうせ時代は変わる」等と家来を信用していないこと丸判りの言葉をつぶやきつつ、自分は惚れた女と去ってゆく。その行為にいちいち下っ端たちが感動するのが理解できないのだよ。自由っていうより身勝手っていうのが正しいんじゃないか?

芥川の原作を忘れてしまったので申し訳ないのだが、こんな三文ヒーロー物語じゃないでしょう、『藪の中』ってのは。比較してもしょうがないのだけれど、なにも黒澤の『羅生門』のリメイクをやれとは言わない。あくまで自分的には、あの作品は黒澤作品でも良く出来た部類には入れたくない出来だったし。しかしこの「時代劇モドキ」は何だ。B'z流しゃいいってものじゃないだろう。これじゃ立派なオトナは騙されちゃくれないぞ。

小栗旬には俺は惚れられない。彼には可哀想だが、創り手のゾンザイさが丸見えなもので。萩原健一の怪演、松方弘樹の可愛さにのみ加点。時代劇を衒いも照れもなく演じられる俳優は、もっと若い層から出現してほしいものだ。

(評価:★2)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)トシ 甘崎庵[*]

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