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[コメント] パコと魔法の絵本(2008/日)

人工甘味料に毒々しく彩られた甘いお菓子を、それゆえに嫌悪する人もいるだろう。だが、この物語の中身は極めてまっとうなハートウォーミングストーリーであり、観客に前を向いて生きることを訴える啓蒙劇ですらある。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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最初からの構成が『嫌われ松子の一生』と同じなのには少々の不安を感じたにせよ、相変わらず中島哲也監督のノリツッコミをふんだんに散りばめた構成は鮮やかである。そして、何よりも劇場の大人と子供がともに笑っていた。大人と子供を同時に取り込んでゆくことは、考えるよりもずっと難しいことだ。こんな作品は近年なかったのではないか(タライが降ってくる、なんていうのは、ノスタルジーギャグとも見えるが案外普遍的な笑いを喚起していたようだった)。俳優もコミックテイストであるこの映画のことを充分わきまえており、多少オーバーな演技が小気味良い。作為的であることは時として欺瞞と糾弾されることもあるが、なんの、中島監督は見世物に徹した映画の表現しがたい素晴らしさをちゃんと把握している演出家だ。

「子供が大人に読んであげたい物語」との惹句がチラシにあるが、至言といえよう。過剰なまでに特化された登場人物と明らかな場面に於けるコミック的演出は、子供が観ていない大人に語って聞かせるにぴったりな単純美を醸し出している。ストーリー自体はシンプルそのもののコメディでもある本作であるのだから尚更だ。朗読の面白みを身をもって体験させてやるにはうってつけだろう。時代の産物としてのギャグのいくつかは廃れても、本質は決して色あせることの無い優れたフェアリーテールといえるだろう。

俳優については土屋アンナ妻夫木聡などという近頃では力をつけてきた面々は言うまでも無く、不安材料であった役所広司の好演は思いがけぬものだった。アヤカ・ウィルソンは今後を見てみないとどうとも判らないが、期待株ではある。後半ちょっと「ガマ王子頑張れ」ばかりを叫ぶ怪獣映画の子役めいた扱いだったのは残念だが、前半は場慣れしており、早くも風格を感じさせた。惜しむらくは、これこそガブリエル・ロベルトの手でミュージカル化すべきだったということだ。日本の真似事ミュージカルに終止符を打つ快作になっていた可能性は充分であっただけに、つくづく残念な総天然色ロマンである。

(評価:★5)

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