[コメント] パコと魔法の絵本(2008/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
「わしの名前をお前がしっているというだけで腹が立つ」
という一代で大企業を作り上げた会長が、自分の名前を必死で覚えてもらおうとするお話だったんですね。
それはパコの記憶が一日しかもたないから。でもパコは大貫(役所広司)に殴られた頬に触れられることで一瞬の記憶を蘇らせることができる。そんな関係が続く毎日ですね。
ファンタジーです。
大貫がカエル王子を演じる際に「許せない、許せない、許せない」と叫びながら自らに群がる大勢の人々を罵倒し、自らの心臓病と戦いながら、人を全く信じない老人。この老人に人を信じる力を与えようとしたのがパコなんですね。
病院の患者や看護婦や先生が、パコにこの本の劇を見せようとする最後のシーンは圧巻ですね。主人公のカエル王子を演じる大貫が最後に発作を起こして倒れます。
しかし本当に命が短かったのはパコの方で、病院に集う人々はパコの死を悲しみます。これはどんでん返しでした。
現代の孤独とは、自らのことしか考えずに他人に対する意識が失われるからなんだろうと思いますね。この映画はそう思わせる映画。茶番に見えるけれども、現代人に見失われた原点回帰を促そうとするさりげなさがこの映画の魅力です。
自分らしさとは、他者があって成立するものですね。ここに集まる不思議な人々は、いずれも精神的、肉体的にハンディを背負った人々ですね。『クワイエットルームへようこそ』の世界です。でもそこに絵本というファンタジーを織り込むことで、素直にこの不思議な世界を受け止めることができるような気がするんですよね。
ヤブ医者が、涙を止める方法を教えてくれませ。
「それは思い切り泣くことなんですよ。」
この言葉にこの病院の人々はそれぞれの過去に涙しますね。大泣きするわけです。その涙の中でパコだけが笑顔で天国へ行ってしまう。そんな関係に大人、子供、そして生き続けること、死ぬことと、という対比が生まれますね。
きっとこれは、この映画のような複雑で色合いの強い作品にしなくても、もっと単純に映画化することが可能だったと思います。
それでもこの世界にこだわることで、画面からあふれる色とかオーラのようなものを観る側は強く感じることができたのではないでしょうか?
2009/8/13
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (1 人) | [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。