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[コメント] ワイルド・アニマル(1997/韓国)

ともすれば通俗的な、きわめて判りやすい作品の印象に戸惑わされる「愛国心」の発露のカタチ。だがそこに在るモノが分断国家の国民の偽らざる心底の核感情なのだ。ふたつの国の象徴たる男たちの戦いは痛く、苦しい。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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いささかスピーディーで、余韻に浸っている暇も無いと言うのが、本作の弱点ではある。しかし、ギドクの謂う「悪い映画」の作り手である彼自身の滑り出しとしては順調といってよく、エロスとバイオレンスをスパイスに、同郷の男たちの友情の、誕生から終焉までを深い母国愛とスタイリッシュな描写を絡めて描く、ギドク流映画の片鱗が窺える。

これは舞台挨拶で彼の口から直接語られたことなのだが、ギドクは案外他の韓国映画を嫌っているように見せて、それを充分に研究しているようだ。『うつせみ』で鮮やかにいわゆる「韓流映画」のロマンスを皮肉ってみせたように、ここでは韓国ノワールをギドクがかつて放浪したフランスを絡めてパスティーシュした印象が感じ取れる。そしてその内に、その時代のはかない夢であった民族統一の願いを込めているあたり、ギドクもやはりれっきとした朝鮮民族の作家であることが深く理解される。そんな深みを、全くのエンターテイメントの中に忍ばせる手法に、彼の若き日の才能を発見できてなかなか興味深かった。

余談。水に近い風景を効果的に舞台に定める、意外な物体を武器に使う(この映画では冷凍サバ)などというお約束もギドクファンには嬉しいところだ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ねこすけ[*] SUM[*]

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