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[コメント] 疾走(2005/日)

これはキリスト教的なバックボーンを持つ映画と見せかけて、実は全く関係のない物語である。手越祐也という若く美しい少年を巡る狭い世界は、敬虔でも背徳的でもない、彼およびその愛する少女を中心とした舞台装置としてのみ機能している。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







豊川悦司という、神父でありながら全く神を信じているとは思えない男がキーパーソンであり、彼を媒介にリアルでは決してない、寓意に満ちた物語が展開される。彼と交際しはじめた頃から手越は殺人の匂いに取り込まれ始め、予言者であるかのような神父の弟がそれを決定的にする。その時の豊川の何と惨めったらしい存在であることだろう。彼は贖罪の思いから教えにすがったのに過ぎないのであり、誰も救い得なかったおのれを恥じてか神父をやめてしまう。それとともに、皮肉にも何にもすがらなかった者たちのコミュニティが形作られ、緩慢な前進を続ける少女と、手越の遺した子供が健やかな姿を見せる。

概して平均的な日本人に受け入れられやすい寓話なのだろう。神の見えざる手すらが齎されない世界での光明をラストは存分に物語っている。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)直人[*] ぽんしゅう[*]

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