もうバレバレだが、マイコーである。彼がまだデビュー当時、『ベン』のテーマソングなんかを歌ってた頃の写真を見ると、今と同一人物かと改めてびっくりする。彼くらい恥知らずに、そして世界にたったひとりの「白いカラス」になる孤独を怖れもせずに、白人もどきになった黒人を自分は知らない。

そういうリスクを背負ってまで、白くならねばならなかった彼の事情は判らないが、少なくともある程度の昔、白人になりすませようものならそうした黒人が、大勢いたことは確実なのだろう。そしてこの物語の主人公が巻き込まれた「言葉狩り」の時代を我々は明確に覚えている。

臭いモノにはフタ。でも臭いモノが自己主張しはじめたらきわめてデリケートに、「プディングに包む」ように柔らかく、注意深く隔離してあげるのが美徳である時代。それをもうアメリカは昔話として語れる時代なのだろうか。残念ながら、自分を取り巻くこの国には自分をカム･アウトできる環境が完璧に出来上がっているとは決していえない。我々は、アメリカを笑えない。