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[コメント] サイン(2002/米)

肩を寄せ合い生きている。慎ましく、誰も傷付けやしないように。なのに何故、この世には善良な人間を苛む理不尽な運命が存在するのか? 食卓を囲めば込み上げてくる家族の涙――父は抱き締め、神に怒りと懐疑を向ける。
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







片田舎で迎える世界の終焉、登場してくるのは、政治家でもなく、軍人でもなく、科学者でもない、何処にでもいる一個の家族。国家が侵略者に対し壮絶な“国防”を繰り広げる傍ら、普段はスクリーンに映されない場所で、家族がただ家族を守るためだけに繰り広げているはずの最小単位の戦い。その戦いにあって彼らは、眼前の敵以前に、自分達自身の無力さ、自分達自身の心の迷いと向き合うことになる。

たとえば、メル・ギブソンホアキン・フェニックスに妻の断末魔を話して聞かせるシークエンスは象徴的だ。一度でも神を信じた者が神の存在を否定することは、自分という存在が絶対的に孤独であると認めたことを意味する。自分が絶対的に孤独であるなら、家族という絆も偽りなのか?

これは、旧約聖書・ヨブに始まる「信仰を持つ者にとっての普遍的な苦悩」を扱った物語なのだと思う。そんな哲学や文学が云千年格闘してきたテーマに一介のファンタジーが落ちを付けてしまう時点で、物語は箱庭以外の何ものでもないのだけれど、このテーマをどんでん返しに組み込むという愚行を、シャマランが確信的にやっているとはどうしても思えない。この人は自分が書く物語を本気で信じてやっているというのが、俺の結論です。そうであればこそ、SFに対する冒涜に等しいちんけなエイリアン象にも目を瞑るし、家族をめぐるシーンの秀逸さを素直に認めてあげたいという気にもなる。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)ざいあす[*] ペンクロフ[*] m[*] けにろん[*]

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