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[コメント] テス(1979/英=仏)

演出が寝惚けてるから、(彼女)あながち不幸には見えなかったし、(映画自体)文学とは思えなかった。
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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孕んで、産んで、母親として覚醒して、しかし、不幸にも喪ってしまった……ここまでの描写はいいんだが、この後、ナタキンの美貌に全く翳りが表れず、むしろ生娘のカホリが戻ってしまったのには、驚愕した。紛いなりにも母親としてむごい経験をした苦悩や貫禄、精神的な成長が全く絵に反映されてないんだもん。

だいたい、あらゆる男の同情を無条件に取り付ける美貌を持ったヒロインが、童貞くさい兄ちゃんと、スケコマシのボンボンとの間で絵に描いたように翻弄されるって、あんた(w。だから、あんな経験をした時点で、彼女はこんな二人のバカ男より精神的に大人になっていたはずだろ?それでも、なお、翻弄されるとすれば、“恋愛感情”からではなく、“生活苦”や“人生に対するやりきれなさ”からということになるはずなのに、ポランスキーは後者を生々しく描かず、前者をこってり描く始末。もはや、文学というか、少女漫画。……が、そう思って観てみると、むしろラスト三十分は面白かったりする。

家族のために、にっくきスケコマシと鳥篭の中の生活を送っていたら、あの頃胸をときめかせた坊やがアタイのことを理解できるぐらいに成長し、連れ戻しに帰って来た!こうなったら、アタイも少女に戻るわよ!亭主ぶっ殺して、あの人と逃げるわよ!胸躍る逃走劇の最中、御殿みたいな別荘に忍び込んで、御一泊(発)。果てに辿り着いたのが、ストーンヘンジですよ、ストーンヘンジ!いや〜、『トゥルー・ロマンス』もビックリのロマンティックやわ〜。つうか、おまえら、そんだけ好き勝手やって、どこが不幸やねん?ロミオ&ジュリエットは不幸でも、ボニー&クライドは全然不幸じゃねぇんです。これで、ラスト、捕まりそうになったところUFOに連れ去られる(宇宙人が作ったという伝説もあるからね、ストーンヘンジには)とかだったら、最高だったのになぁ。

まあ、最後に、少しまじめに文学的要素を抽出するとすれば、神への懐疑という重大なテーマがある。牧師に父親が余計なことを教えられたがために、不幸が始まり、父親が子供の洗礼を拒んだから、子供は教会に埋葬されることが許されなかった。信仰が報われず、むしろ神に蔑ろにされる自分の人生、いったい何故なんだろう?そうして、彼女は教会にやってくる。靴を変え、教会に入ろうとするも、しかし結局辞めてしまい、靴も取り返さず、帰っていく――このシーン、筋には何の関係もないが、この物語の主題のように思う。信仰と懐疑の間で揺れ、結局答えを得られず、罪を犯さずにいられなくなるも、皮肉にも最後ばかり神の名の下に裁かれる、そんな彼女の人生をめぐる神への大いなる「?」こそが、真の主題だったはずだ。そして、もし、演出が本気でそれを追求していたなら、死刑台に登るテスを描かずにはいられなかったはずである。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)けにろん[*] さなぎ ボイス母[*]

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