イスラエルの壁越えシーンにすべてが集約されていると思った。モチーフも絵も素晴らしいのに、物語を織りなす文脈が随所で間抜けている。インドの暗号から未曾有の危機を明察するなんてさすがはイスラエル、誰も信用していない危機管理の国と思わせといて、その一挙崩壊の原因が野外カラオケ大会とはズッコケる。脚本は、どうして、ここ、もっと“やむにやまれぬ”事情、シチュエーションを醸成しなかったのだろう。誰も信用しない一国主義が逃げ込んでこようとする難民と押し問答するうちに、騒ぎが大きくなって、暴動が起きて、その悲鳴が どうしようもなく高まって、塀の向こうのゾンビ大興奮とかだったら、映画史に残るシーンになったかもしれないのに。この映画、ゾンビの凶暴さのさらに上を行く人間の闇がいちいち足りたい。そういう倫理的に危ういのとか、政治的に波紋を呼びそうなのとか、作り手はかったるくてやる気がしないんだろうな。そう考えると、『２８週後．．．』の中盤のゾンビといっしょくたになって逃げ惑う群衆を狙撃兵が見分けられずにバシバシ撃ち殺すシーンは、貴重な名シーンだった。