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[コメント] 鉄人28号(2004/日)

「昭和」を背負うには懐かしさに欠け、「平成」を名乗るにはリアルさが足りない。監督の目には昭和も平成も、恐らく鉄人すらもしっかりとは入っていない。
Myurakz

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 この現代に「鉄人28号」を実写化するのであれば、僕個人としては昭和の匂いのする映画を作ってほしかったと思っています。昭和30年代のテレビ画面のようなレトロな画質の中で、フルCGの鉄人が縦横無尽に暴れ回る「今だからこそできる懐かしい映画」。実際今作の予告やポスター、パンフレット等は全てそういった見せ方をしており、監督の意図とは別に「その方が集客に繋がる」と思った誰かが宣伝に関わっていたことが伺えます。打ち出すべくは「ノスタルジー」であり、「昭和というファンタジー」だったわけです。

 ところが実際の映画は「平成というリアリティ」の中で進んでいきます。画質も至って普通だし、舞台も明らかに今の東京。子供たちの設定もしっかりと現代っ子になっています。であるなら、全編通してリアリティを追求してほしいと思った。現代の僕らの生活に突如鉄人が現れるような、それも「最新鋭の兵器としての鉄人」が踏み込んでくるような、そんな映画だったらそれもまたありだと思ったんです。

 でも残念ながら今作はそのどちらでもなかった。かと言ってそれ以外のどこか新しい場所を目指すわけでもなく、ただその「昭和と平成」=「ファンタジーとリアル」がバランス悪く混在しただけの作品となっており、当然僕には何のカタルシスも与えてはくれなかった。具体的にいうと、平成を舞台にしながら、大事なところで昭和に逃げを打ってるように感じられたんです。

 まずは何より出てくる大人たち。子供たちが現代っ子になっているにも関わらず、大人は皆やけに展開に都合よく行動します。初めてリモコンを持つ子供に「何してるんだ!」なんて叱責をかます爺さん。「目がいい」程度の理由で地球の未来をその子供に預けちゃう開発者たち。地球リセットの片棒を担ぐ女が口にするとは思えない「神様、どうか零児を助けて」みたいな台詞。未来のかかったロボット同士の戦いを、まるでプロ野球でも観るようにテレビ観戦する一般市民。独断で発砲しまくる中澤裕子刑事。そして何より、河原で突如始まる蒼井優とのうさん臭い水の掛け合い。何ていうのかな、この映画に出てくる大人たちって、どいつもこいつも「子供騙し」なんですよね。発言が上っ面で、その存在に何のリアリティもない。まるで物語を予定調和で進めるためだけに置かれた小道具のようです。こんな虚構の大人たちの中で子供の成長を語られても、それはやはり虚構にしか感じられない。

 ロボット同士の戦いも然りです。現代の映像、現代の景色、その中で戦うには正直あまりにドン臭い。よいしょ、ガチーン、よいしょ、ガチーンって。鉄人らしいドン臭い戦いを敢えて見せたいなら、せめてそれを面白く格好よく見せる工夫があって然るべきでしょう。それをそのまま生で見せられても、そのどこに憧れればいいというのか。僕あんなダサいロボット操縦したくないですもん。

 結局、「ノスタルジー」と「子供」と「大人」と「鉄人」がチグハグなんですよね。そしてその中で、何より「鉄人」が軽視されてるんです。順位でいうなら子供>ノスタルジー>大人>鉄人くらい。それじゃあどこにわざわざ現代に鉄人を蘇らせる意味があるのかって話です。だから鉄人がどこまでいっても格好良くない。

 実際、もうちょっと鉄人に目が向いていたんなら、悪いヤツは絶対に鉄人のリモコンを盗もうとするはずなんです。「リモコンは鉄人の命だ」みたいな台詞まであるんだから、「武器を使うのは人の心なんだ」ってところまで踏み込んで然るべきなんです。それを核爆弾持って宇宙でドカーンって、そりゃ鉄腕アトムだろうと。懐かしアニメなら何でもいいのかと。挙句に放射能まみれの鉄人がボチャーンって落ちてきて、それ「やったー」なんて喜んでる場合じゃないだろう。

 やっぱり監督の見せたい物が「鉄人」じゃなかったんでしょうね。鉄人の下敷きになったコンテナまでCG丸出しだったりするとこっちはこっぴどく萎えるわけで、とにかく「鉄人を魅せる努力」が希薄に感じられた作品でした。クドいようだけど、やっぱりレトロっぽい鉄人映画が観たかったなぁ。

(評価:★2)

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