[コメント] 暗黒街の弾痕(1937/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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ひとの話を聞かない悲劇。
この邦題はないだろー!『邪魔者は殺せ』と同じく意味不明タイトルだ。
最初にタイトルとクレジットから想像した内容はギャング映画で「チンピラがボスの情婦に手を出す→愛が生まれる→ボスに感づかれる→2人で逃げる→追っ手を殺す→警察からも追われる→ボスを殺す→警察にやられる」みたいな感じだった。
全然違った・・・。
というわけで、ここからが本題。
結構ストーリーが雑だったり、リアリティ(特にシルビア・シドニー)がなかったりと、いくらか粗はあるわけだが、基本的に娯楽色のある飽きの来ない作品ではあった。絶体絶命のピンチを主人公に味わわせたり、後半は先の読めない展開だったりでストーリー的にかなり上出来だ。では面白かったか、楽しめたか、と聞かれるとそうでもない。
実に暗いのだ。作品はネガティヴな視点に覆われている。
厭世的と表現してもいいだろう。この作品の監督が『M』や『死刑執行人もまた死す』を作った人だと知って「ああ、なるほどね」と妙に頷いてしまったのもあながち気のせいではないかも知れぬ。
具体的にいうと、この映画には人間不信の空気が渦巻いているのだ。単なるストーリー進行の手段だけではあるまい。不信だけでなく、キーワードとしてひとの話を聞かない、という行為も挙げられよう。例えばヒロインの姉と主人公、雇い主と主人公、主人公と刑務所所長、これらの関係はみな深い不信に根ざしたもので、ひとの話に耳を貸さない事実も確かに成立している。換言すれば、この映画を衝き動かしているのは人間の不信感なのである。主人公が前科者である設定を考慮してもこういえると思う。
不信感、それは一歩押し進めれば相手を受け入れられないことでもある。ちょうど時期(1930年代後半)を同じくしてドイツでそんな現象が国家的に行われていたではないか!
監督がどんな政治的立場だったか知らないが、私自身はこの作品から象徴的なもの、或いはメッセージのようなものを勝手に解釈してしまった。相互不信の先に未来はないのだ、と。主人公とヒロインは信頼関係にあったわけだが、最後に死なせてしまう所を見ると、何か絶望的な臭いがしてくるのだ・・・。
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