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[コメント] 秋刀魚の味(1962/日)

柱である父娘(笠智衆岩下志麻)を描くため、東野英治郎杉村春子という全幅の信頼を寄せる2人を使ってもう1組の父娘を描くという残酷なまでの、そして見事なまでの対比の映画。
ナム太郎

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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前述の2組の父娘の他にも、例えば中村伸郎三宅邦子佐田啓二岡田茉莉子という2組の夫婦の対比や(エプロン姿の佐田や、主人の前でがさつに葡萄を食べる岡田が楽しい)、その佐田三上真一郎との兄弟としての対比(結婚式の夜、父・を気遣う三上がすごくいい)、東野と元生徒たちの師弟関係の今昔の対比、あるいは画面の濃淡という対比による悲喜の表現や、心に沁みる台詞の数々で泣かせるかと思えば、最後は何も語らぬ姿見でも涙を誘うところなど、とにかく、ありとあらゆる対比という構造によって映画としての柱が浮き彫りになっていくところが素晴らしい映画である。

それは演技のうえでも同様で、酩酊する東野の傍らで涙にくれる杉村というシーンは勿論のこと、結婚式の日、感情が表に出やすい岩下が父に挨拶をしようとすると、があえて感情を抑えたように淡々と「ああ、わかってる。わかってる」と語りかけるシーンなど、素晴らしいシーンを挙げればキリがない。

さらにファンとしては、『秋日和』で縁談話があのような結果に終わった北竜二が若い女と再婚し、それをからかわれるのも最高に可笑しい。

このような素晴らしい作品が小津の遺作であることは悲しい事実だが、こんなに素晴らしい作品を遺作と呼べることは、彼にとって永遠の幸せでもあるのかもしれない。

(評価:★5)

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