コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 息子(1991/日)

いいではないか。
ナム太郎

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







最愛の妻に先立たれ、独り遠き日の思い出に生きるしかなかった老人が、過去は過去と悟り、明日に向けて冷たい雪が降り積もる古宅に明かりをともすラストの余韻と、真夜中のアパートでの「お富さん」が心にしみわたる。

山田洋次の映画は、現代劇を公開時に見てもその画には洗練されない古さすら感じてしまう。本作に描かれている情景も80年代から90年代にかけての日本のはずだが、そこには70年代に封切られた彼の諸作と変わらぬような雰囲気が醸し出されている。

がしかし、その古さにある種の心地よさを感じてしまうのも事実である。それはやはり、彼の作品が決して流行を追わずとも、人の心の本質を描いているからに他ならないだろう。

その背にすら存在感が示された三國、熱演の永瀬、難役を可憐に演じた和久井、笑いの中にも本音をしのばせドキッとさせた邦衛等々、役者陣も皆が素晴らしいし、生真面目すぎるとはいえ、駅まで見送った娘に対して父に「大きな腹をしているのに送らせて悪かった」などと言わせる脚本もやはり秀逸であった。

驚くしかない受賞歴には不作と言われた当時の邦画界の状況が垣間見られるし、これを例えば『東京物語』などと重ね合わせたりしたときにはその立場は一気に不利な状況に陥ること必至だが、それでも永遠のとは言わずとも本作が素晴らしい作品であることは事実で、そんな映画を今更ながらに評価することについてもやはり「いいではないか」と開き直ってみたいと思う。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)セント

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。