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[コメント] 市民ケーン(1941/米)

ラストで最後の1ピースがはめ込まれ、パズルは綺麗に完成した。他人の人生をトレースする行為の面白さ虚しさを、「ばらのつぼみ」という謎の言葉を使って強引に美しくまとめあげた監督の力量を感じる作品。
NAMIhichi

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「ばらのつぼみ」とは何を意味するのか? 映画の冒頭で誰もが考えるだろう。いい年をしたオトナが思いつく解答は一つだけ。「女性の…」。実際はそれが正解だというから驚く。この単なる隠語に過ぎない言葉を、さも意味ありげに扱い、ケーンの生涯が浮彫りになっていく過程が面白い。

ラストの橇は、月並みだが母親の愛を意味し、ありとあらゆるものを蒐集したけれど、本当に欲しかったものは得られなかったということを表わしているのではないだろうか。私にはそれ以上のことを汲み取ることはできなかった。観る人によって、色々な解釈がありそうで興味深い。

最後の言葉に、その人の人生が集約されているかのような幻想を抱くことは魅力的だ。その言葉の意味が解明されたら、その人の人生も解明される、という残された者たちの期待。この映画からは、そういう期待を抱いて、ばらばらに散らばった他人の人生のピースを拾い上げ、一つのパズルを完成させるような行為の面白さ、虚しさを感じた。

観ている途中に思い出したこと。以下、映画とは全く関係がなくなる。

「もっと光を!」さんざん哲学的な解釈が施されて有名になったゲーテの最後の言葉。実際は単に部屋が暗かっただけらしい。もう一つ、私が忘れられないのは、夏目漱石の最後の言葉。「何か食いたい」……現実の人生なんてそんなもんだ。だから面白い。逆に、自分の人生のしめくくりに、美しい最後の言葉を用意するような人間なんてちょっと信用できない。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)Myurakz[*] [*] シーチキン[*] くたー[*]

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