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[コメント] 南部の人(1945/米)

意地悪
ルミちゃん

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ルミちゃんは優しい子、意地悪なんかしたことないから、意地悪の意味が分からない.仕方がない、辞書を引いてみよう.

わざと人を困らせたりつらくあたっていじめたりすること.(大辞林)

真面目に書きましょう.この映画、意地悪を軸にして、それに対比することを描いています.「わざと人を困らせる」に対しては「さりげなく人を助ける」であり、「つらく当たる」に対しては「優しく接する」、「いじめる」を私なりに補足すれば「強いものが弱いものを困らせること」、に対しては、「強いものが弱いものを守ること」.

さて意地悪の第一はテイジーちゃん.叔母さんに「この野ぶどう、おいしわよ」、そして蛇をつまみあげて.とっても優しい感じのこの子に意地悪させる、この描き方がジャン・ルノワール.

隣の農家の意地悪、さりげなく牛乳を渡そうとする娘の優しさは書くまでもない.

居酒屋のおやじと客を引く女、この二人も言うまでもなく意地悪.サムが石をぶつけて、その後二人は逃げるけれど、この辺がさりげなく助けると言ってよいでしょうか.に対して、釣りを返さないのがわざとであれば、物を投げ合って店を無茶苦茶にしてしまうのもわざとであり、女まで店を壊している.

子供の病気、母親は大地にひれ伏し、サムは天に向かって叫ぶ.牛を連れてくる辺り、わざとっぽく受け取られそうなのですが、その背景にサムの母親の恋愛を、さりげなく織り込みました.

母親の結婚式、その夜の豪雨は、収穫前の綿花をわざと狙ってきたかのように、洪水となって畑の収穫の全てを奪い去りました. 洪水という自然の意地悪の前に、一度は農夫を続けることを断念しかけたサムなのですが.皆で協力して後片付けをしている家族、その姿の中にあるさりげない愛.「おまえは根っからの農夫だけど、おれは工場で働くことが好きだ.都会で働く者は田舎で農夫の作った物を食べ、農夫は工場で作られた農機具で畑を耕す」.自覚はないけれども、いつでも皆が助け合って生きている、あるいは協力し合って生きている.その心は一緒に暮らす家族のさりげない愛と同じもの.サムはもう一度、農夫を続ける勇気を抱くのね.

もう一度デイジーちゃん.この子の表情はいつでも素敵. コートがなくて学校へ行けない、お婆さんの毛布を取り上げコートを作る.コートが縫い上がって「似合うよ」これは母親、お婆さん、どちらの言葉なのでしょうか.テイジーちゃん、お婆さんの方を振り向いてから、母親の方を見て嬉しそうな表情.なんと言おうかしら、意地悪の反対の心を全て含んだ笑顔、こう言っておこう.

最後はルミちゃんで行ってみよう.「ねえねえ、何か忘れていない.川のなかに私を置き去りにしないでよ.意地悪なんだから.モー」

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)KEI[*] 死ぬまでシネマ[*]

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