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[コメント] 妖星ゴラス(1962/日)

「意味」の存在しない映画。
ina

この映画は「意味」のない映画だ。

話は土星探索の宇宙船が地球に近づいてくる星「妖星ゴラス」を調査しているときその星に飲み込まれる所からはじまる。その星はどんどん他の星を吸収して地球に近づいてくる。地球は「南極計画」という地球そのものを移動させてその星から逃げる。ストーリーのプロットは荒唐無稽だが面白い。アイディアはハリウッド映画に負けないぐらい独創的だ。

しかし、正直なところ笑いもできなかったし感動もなかった。苦笑さえもできなかった。

その理由は「意味」のなさだと思う。

私は本来は「意味」のある映画はあまり好きではない。ハリウッド映画のように全てに「理由」があり「説明」がある映画はなにも想像させず想像できないので心が動く事はない。いい作品には「説明」「理由」はないがちゃんとそこには「意味」がありそれを自由に観客が考える余裕がある。傑作のなかには「意味」さえも隠されているが「隠されている」ことが重要でとても自由な想像ができる。

この映画はどうか。 「意味」は隠されていない!存在しない。「意味」にかわるもっとすごいものもない。「リアル」、「映像詩」、「映画的瞬間」、「映画そのものという表現」は皆無だ。「意味」のあるハリウッド映画より、「意味」の隠されたいい作品より、「意味」以上の表現の傑作より、この「意味」のない映画ははたして人を感動させるのであろうか。

「意味」のない部分をあげてみる。

●主人公のパイロットの記憶喪失。ここでハリウッド映画なら妖星ゴラスの正体を見てしまい、あまりにもの恐怖で記憶を失った。そこで記憶が解けたとき地球を救う方法を見つける。となるだろう。しかしこの記憶喪失はただびびってなっただけだ。なんの意味があるのだろう。

●巨大オットセイ。南極に地球を動かすロケットを設置する「南極計画」の工事現場で唐突とこの怪獣が現れる。工事現場は破壊されその怪獣は殺してしまう。なんの意味があるのだろう。地底にはまだ人間の知らない巨大生物がいるという説明だけで「意味」はない。

●宇宙パイロット。最初の土星調査の宇宙船が妖星ゴラスに飲み込まれるのはその妖星ゴラスの怖さを表現している、第二陣の宇宙船の行った意味もなすすべなしという意味がある。しかしあの「万歳」と「宇宙パイロットの歌」はなんなんだ。もちろん「意味」はないが時代だからと言っても寒すぎる。「宇宙パイロットの歌」のシーンで勝手にヘリコプターに乗り込み歌って長官に会いに行く。その話自体もナンセンスだが、そのシーンが以上に長いのはまさに「歌」のため。「歌」のためという意味はあるがその映像はひどい。手持ちの東京の町並みの俯瞰ショット。乗り物酔いのような感覚になった。「歌」のため、映画にはまったく「意味」がない。

●葬式の場での真っ赤な服。宇宙に行くことに当日知らない娘。白川由美が演じる娘、ファーストシーンで車で海に遊びに行く。自分の彼氏、兄?が宇宙に行くのに当日遊んでいてロケットが飛び立ったとき驚いた表情をする。水野久美の演じる娘に説明されている。なんなんだ?また葬式のとき真っ赤な服で来る。ストーリー的、絵的にはいいかもしれないがテレビ電話で思いを寄せている科学者と恥らいながら話しても説得力がない。細かいところに「意味」は宿るのにこの映画はそれを放棄している。

●話全体。ただ妖星が地球に近づいてくる。地球自体動かして逃れる。単純でいいがアイディアだけのような気がする。もちろん「意味」はない。

●人間ドラマ。全員自分の役割、仕事をしているだけで交流がない。主人公のパイロットと水野久美のプレゼントを持ってきたシーンで喧嘩する所は本当に表層だ。 心の交わりが一切ない。科学者と白川由美のテレビ電話も白川の俯いたところはいいが白川の演じる娘の性格が解らないのでここも表層だ。この映画では人間ドラマというものはなく、ただ人間がいるだけ。そんなところには「意味」なんて存在しない。

この映画は「意味」のない映画。それとも「意味のない」ような映画なのか。ただ「意味のない」ように狙って作ったようには思えない。この監督はそんな風に狙って撮れる人ではない。

この映画の監督の「ゴジラ」には確かに「意味」はない。ただゴジラは暴れるだけ、しかし原爆というテーマが底辺にあるしそのゴジラの存在は「意味」以上の恐怖という感覚が観客に伝えられる。

「意味」

この言葉を連呼している自分に今気づく。

私は「意味」という病にかかっているのかも知れない。

芸術には「意味」「説明」「理由」がないが本当に美しいものは存在する。それは十分承知だ。しかし人間はそこに「意味」を求めていろいろ考える。例え解らなくても。そのように考えることができる自由な作品こそ傑作だと思う。

この作品はわたしにはその「自由な想像」を与えてくれなかった。

(評価:★1)

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