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[コメント] 塔の上のラプンツェル(2010/米)

ディズニーによるピクサー吸収により、間違いなく質は上がってる。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 物語は申し分なし。物語そのものはファンタジックだし、アクションもふんだんに取り入れているが、主人公はあくまで思春期に入った等身大の女の子に起こった物語として、ほぼ完成の域に達した作品ともいえよう。これだけ見事だと、悪く言いようがない。

 で、普通に書いてると単なる褒め言葉にしかならないので、それは他の方のレビューに任せ、ちょっと違ったことを書いてみたい。

 昔からディズニーは女の子を主人公にして作品を作ってきた。その中には主題として女の子の精神的成長を描くものも多かったのだが、それが非常に明確化したように思える。かつてのディズニーの作り方は、ドラマがまずあって、その課程で女の子の成長が描かれていたのだが、この作品では成長を前提として物語が組み立てられている。その辺がもの凄く明確化されていて、潔さを感じるし、それが本当にうまくはまってる。これはつまり主人公の女の子を比較的高い年齢に設定し、思春期の女の子が自らを確立し、これからなすべき事を見つけだしていくことになる。これまでのディズニーキャラにも比較的年齢の高い女の子は結構出てきていたが、そこに登場する女の子の大部分は精神的に成熟しているか、さもなければ体は大きくても最初から最後まで精神はこどものままというパターンがほとんどだった。

 そういう意味ではずいぶんディズニーも変わったものだ。とか思ってはいたのだが、もうちょっと考えてみると、これは本作が始まりではない。数年前から明らかにそういう方向へとディズニーは変わっているように思える。

 実際本作は満足のまま観終えることができたのだが、最後のスタッフロールを観て、いろいろな意味で納得した。

 製作者の中に“ジョン・ラセター”の名前がある。

 これだけですっきりと納得した。

 ラセターは言うまでもなくピクサーの中心人物で、『トイ・ストーリー』以来、次々と名作を作り出してきたヒットメーカーであり、ピクサーをここまで有名にしたのはラセターの手腕によるところが大きい。そんな人。「なるほど質が高くなるわけだ」という納得した思いがあったが、同時に、この作品はピクサー作品ではなく、ディズニー作品。単なるディズニーの一部門の人がここまでディズニーの中心に食い込んでいるのか。

 数年前、ディズニーとピクサーは緊張関係にあった。元々ディズニーの一部門であったピクサーが独立するかどうかでもめ、紆余曲折の末に元の鞘に収まり、ピクサーはディズニー傘下に留まることになった。ヒットメーカーであるピクサーを分離するのはディズニーにとっても痛手なので、収まるべきところに収まったとその時は思っていたのだが、その後でちょっとした噂を耳にした。

 それは、「あれはディズニーによるピクサーの吸収ではなく、ピクサーによるディズニーの乗っ取りだ」というもの。

 それでちょっとネットで検索してみた…出るわ出るわ。その吸収の舞台裏が。

 何故あんなに吸収にもめたか。それはピクサー側が出した契約更新内容が、自分たちがディズニーの経営そのものにかかわることが前提にあったようである。ディズニー側としては、いくらヒットメーカーとはいえ、自分たちがこれまで培ってきたものを否定されたくなかった。特にピクサーの言い分を飲めば、これまでディズニーを支えてきた上層部がみんな首になってしまう。そんな爆弾のようなものを内部に留め続けるのか。

 一方、今の不確かな時代にあって、ほぼ確実にヒット作を作れる製作会社を手放すのは、あまりに惜しい。

 そんなことで揉めに揉めた後、全面的にピクサーの言い分を飲んでディズニーは新生した。ディズニー上層部にとっては苦渋の選択だっただろう。

 …とは言え、結果はこの通り。少なくともアニメ部門にとっては間違いなく質は上がった。

(評価:★4)

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