[コメント] レスラー(2008/米=仏)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
本作の実質的な物語は、ハリウッドの定式から逸脱しているため、いつも通りのハリウッド作品で泣きたいと思ってる人には意外な物語に見えるかもしれない。ただ、そういう変化球を使って何が出来たかと言うと、実に日本的な、演歌の世界そのものになってしまった。やくざ稼業が長い男が老境に入り、急に人の温もりが欲しくなり、飲み屋のママや昔捨てた娘を頼り、しかし稼業はどうしても捨てられず…まさしくこれぞド演歌の世界だ。こう言う作品だったら、わざわざアメリカでなく、日本の古い映画にはいくらでも見つけられる、実にパターンに沿ったありきたりの物語である。
だが、そんなベタな話でも、流石は世界で受け入れられるだけのことはあって、やっぱり素晴らしい作品だと思う。主題はとてもシンプルだけに、本当に泌みる。こう言う生き方しかできない人間を、こう言う描き方しかない。という物語に仕上げてくれた。ある意味、分かりきった物語ではあるのだが、その分かりきった結論が涙をさそう。
それには、本作の主人公にミッキー・ロークを起用できたことが最大の強味だった。このキャラが演歌をやってるってだけで泣ける。
ミッキー・ロークといえば、80年代にセクシー俳優として大人気を得、更にプロボクサーとしてリングに上がるなど、何かと話題を振りまいてくれた人物ではあったが、変化の激しいハリウッド業界の中では生き残ることが出来ず、やがて忘れられたスターとして、映画の端役とかにちょこちょこ出るくらいが関の山。という、ある意味とても分かりやすい凋落人生を送ってきた。だが、そんな彼だからこそ出来る役というのもあったようだ。主人公の姿は見事にローク自身を髣髴とさせるなはまり具合。ロークはこれまでのようなタフガイ役ではない、もっと幅広い演技が出来る人物として、これから期待できそうな俳優である。ところでマリサ・トメイは…オスカー女優が良くこんな役やったよな。と言う感じで、まさしく体当たり演技。ロークの体当たりに良く対抗していた。やっぱり痛々しいんだけどね。
演出面においても、アメリカの本場であんなに客が入らない興業や、事前打ち合わせのうえ、血みどろの死闘を演じるリング、肉体維持のために高価な薬を惜しげもなく投入し、結果家賃も張らないほど貧乏なプロレスラーの生活など、一見華やかなプロレスの裏をきちんと見せようとしていることも寂しさに拍車をかけて上手い演出だ。
ラストのブルース・スプリングスティーンの歌も泌みいる良い曲。この人も本来反逆を意味していたロックを国民音楽へと転換させたと言う、やっぱり80年代の寵児だった過去があるので、それがブルース調でしんみり歌われると、時代というものをしみじみ感じさせるものである。この人引っ張ってきたのは、確実に狙ったな。演歌を入れてもはまった気がする。
とにかく演出とキャラクタが突出して良い作品であり、更にノスタルジーを刺激するため、特に80年代に青春を送った人だったら、泣ける確立がとても高い。プオタ以外の人にももちろんお薦め。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (3 人) | [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。