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[コメント] 紙屋悦子の青春(2006/日)

私は回想形式にしたことに大いに不満を感じます。
sawa:38

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







回想形式にしたことで主人公ふたりのドラマとしての結末は最初から判明していた。この為、この初々しいカップルの恋の行方や戦争下という状況での生死といったドラマ的な緊迫感は欠落したままドラマは進んでいった。

本作はドラマティックな展開を期待する作品ではないのかもしれない。「淡々とした」という表現しか思いつかない程意図的な演出にこだわった作品である。会話を通して「あの時代」を冷静に解き明かした作品であることには間違いない。良作だろう。そのこだわった演出は多くのコメンテーター諸氏が指摘するように小津安二郎を意識している。

本作のメインたる「会話」は取るに足らない内容のものである。まるで舞台を現代に差し替えてもおかしくない内容のものである・・・・・いくつかの戦争中特有の単語を除けば・・・・・

それ故に戦争という非日常が、普通の家庭に影を落としている恐怖が伝わってくる。例えば現代の家庭で、旦那の帰りが遅いなんて時に「もしや機銃掃射で殺された」なんてことは露ほども考えはしないだろう。こんなあまりにも日常的な会話(だが恐怖に怯える)が淡々と繰り返されることによる「戦争への恐怖」は、いわゆる普通の戦争映画からは伝わってこない別の意味の恐怖がある。

「淡々とした」という表現は「テンションが低い」という言い換えも出来る。このテンションの低さはボクシングのボディブローのようにやがてズシリと効いてくる。台所での悦子の嗚咽がその捌け口として、作品のクライマックスとして用意されていた。

しかし、どうだろう?それはクライマックスとして弱くはなかっただろうか?なにしろ上記の回想形式にしたことによって本作に緊迫感は無いと宣言されているのだ。「映画的」にもう一歩工夫したクライマックスを用意できなかったものだろうか?

だから私は思う。本作は回想形式をとる必要はなかったんじゃないのだろうかと。戦時下という状況での先行き不安を残しつつドラマを展開したほうが良かったんじゃないのだろうかと。

さらに言えば、あの冒頭10分におよぶ現代まで生き延びたふたりの会話には「桜の木」ぐらいしかキーワードが存在せず、この後展開されるであろうドラマへの伏線が何も潜んでいないことに驚いたのも事実です。退屈な10分だったのが残念なのです・・・

(評価:★3)

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