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[コメント] アステロイド・シティ(2023/米)

科学信奉と希望の象徴としての若き天才たち。その一方、幼い姉妹の死と復活への呪術的こだわり。背景で繰り返される原爆実験は共産主義化への脅威の証し。理念先行の女教師を魅了するカントリー野郎のニヤケ顔。異星人の到来を隠ぺいする政府と軍による垂直統制。
ぽんしゅう

そして家庭からの孤立する戦場帰りのカメラマン(ジェイソン・シュワルツマン)と 虚実あわいのエンタメ・スター女優(スカーレット・ヨハンソン)。ウェス・アンダーソン仕様の色彩と造形の箱庭空間アステロイド・シティに漂うのは1950年代アメリカの自信と不安。

前作『フレンチ・ディスパッチ』で挑戦していた、意味や必然を無化して物語を語るような実験にはちょっとついていけなかったのですが、時代を1955年、場所をアメリカの砂漠の町という「定点」に定め、テレビ中継(疑似視聴)のなかの舞台劇(疑似演者)とその作者(疑似作家と演出家)の葛藤という三重のフィルターを掛けることで、1950年代のアメリカ(という時代と場所)の歪みや可笑しみを誇張して、そこに充満し停滞していた「自信と不安」を茶化すという今回の試みは面白かったです。終始クスクス笑いっぱなし(宇宙人の挙動最高)でした。

作中で呪文のように唱えられる「覚醒するために眠り続けろ」とは、進歩しているようで相も変わらない現代のアメリカ社会に向けられた皮肉でしょうか。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)disjunctive[*] けにろん[*]

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