コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] グッバイ・クルエル・ワールド(2022/日)

はなから組織に属せない、あるいは外された者(つまりは個人)の非力さを描いて容赦ない。裏返せば、それは権威に従属さざるを得ない脆弱批判でもある。この弱き者たちへの忖度なしの仕打ちは大森立嗣のオリジナル『タロウのバカ』に通じる“冷たい挑発”を感じる。
ぽんしゅう

ここ数年に観た邦画のクライム&アクション系映画で、エンタメを志向してサービス過剰に走らず、弱者(落ちこぼれ)を描いてウエットに堕さない、これほど潔のよい映画はなかったように思う。大森立嗣の焦点を絞った簡潔な語り口に手練の俳優たちが適材適所で過不足なく(奥田瑛二のみウキきまくりだが)応え、メリハリの効いた無音、有音、音楽使いが心地良い緊張感を持続する。

タランティーノの飄々としたダメな奴らの群像劇を踏襲しつつ、最後には『仁義なき戦い 頂上作戦』の広能(菅原文太)と武田(小林旭)がたどり着いた徒労のすえの抒情の投合すら許さぬシビアさも潔かった。

特に印象に残った俳優が二人。『惡の華』(2019)でもそうだったが、覚悟を決めたのときの玉城ティナのあどけないファニイフェイスに張り付いた虚ろな冷酷さのギャップ。捕らわれの身となった玉城がカウンターで食事する後姿の崩れ落ちそうなしどけなさが醸す徒労感と喫茶店での享楽的にすら見える蛮行のギャップ。玉城のギャップは魅力的だ。

もう一人は、どん詰まりの狂気をほとばしらせて半端なかった奥野瑛太の鬼気迫る形相の怪演。私が初めて奥野を意識したのは、やはりどん詰まり野郎を好演した『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(2012)だった。去年は『空白』(2021)で元スーパー店長(松阪桃李)に声をかける通りすがりの顧客役で映画のラストを締めていた。先日観た『激怒』(2022)では、あてがわれた形式的でつまらないキャラの刑事役を、形式的に実につまらなく(=正直かつ的確に)演じていた。それはともあれ奥野瑛太が本作で今年の助演男優賞を総なめしても誰も異論を挟まないだろう。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。