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[コメント] 惑星ソラリス(1972/露)

海にまつわる一篇の上質なラブ・ストーリー。
町田

ガタカ』のじぇるさんのコメントにもあるが、優れたSFとは、単なる社会風刺や警鐘に留まらず上質なヒューマンドラマとして成立しているものを指す。

高名な原作とは大分異なる(未読)ようだが、「潜在的な願望が物質化される密閉空間の存在」と「その科学的根拠」の一部、つまり「着想」さえ借りてしまえば本筋(ストーリライン)をなぞる必要性は必ずしもないと思われ、実際、監督とフレドリッヒ・ゴレンスタインなる人物との共同脚本はSF映画として一つの完成形に至っており、文句を言うどころか敬服の念を抱かずにいられない。

ソラリスによって生み出された「妻ハリーなるもの」が陥るアイデンティティ・クライシスは切実である。彼女に比べれば「アンドロイドは電気羊…」、『ブレードランナー』のレプリカント達など物質的破壊に「怯えられる」だけ幸福な存在と云えよう。確かに其処に存在してることが保障され自身らもそれを露ほども疑っていないのだから。

しかし、これに関して更に踏み込むとそこはもう哲学の領域、唯物論とか観念論とかその他にもムズカシイ用語が噴出する領域であるので、無学無教養な私は語るべき言葉を持たない。私のような人間が背伸びして「タルコフスキは明かに観念論者だ」とか「これはレムの原作というよりは観念そのものを映像化したものだ」とか「ラストは予想通り懐疑的に〆た」とか或いは「私はどちらかというとXX論者だが」とさえ云ってみても何の説得力もないのである。

そういうわけで私が最重要視し評価するのはジレンマに陥る主人公クリスの心理描写の緻密さである。ヒューマンドラマとしての充実ぶりに何の迷いも無く5点を捧げる。ポエムの『』、ドラマの『ソラリス』、どちらも好きだ。

また無重力シーンでは涙が溢れた。感動的な驚き、といえばいいのか。ああいうワンシーンに映画が映画であることの素晴らしさを感じる。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)寒山拾得[*] chokobo[*] Ribot[*] じぇる uyo[*] ハム[*]

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