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[コメント] 夜になるまえに(2000/米)

ハッとするほど印象的な言葉と映像が、まるで散文詩のようにばらまかれていた。が、そこには「あくまで散文詩の域から脱せていない」という苛立ちも少なからずある。
tredair

うろ覚えだが、完全な静寂の世界よりも人々の喧噪の中でこそ自分の芸術は生まれるのだ、といったような言葉にはとても胸を打たれた。

人が何かを表現するとき、そこには自己と向きあうことだけではなく他者からの着想や周囲の環境による影響も必ずある、と信じている。自分の世界を持ち続けることは、自分以外の者や何かがいたりあったりしてこそ可能なのではないか、と思っている。

好む好まないに関わらず「 現世」に生をなしてしまった以上、全てのものと断絶するのは至難の業だ。そして、だからこそその中で「己」を探し、それを理解したり表現したりしようと七転八倒しながら、人は人となっていくのだと思う。それは何も芸術家と呼ばれる(もしくは自称する)人々に限ったことではない。「生きている」という共通項を持つすべての人に言えることだと思う。

だからこそ、「自分以外の世界」を踏まえたうえでの「自分だけの世界」を一生懸命に探したり表現したりしている人や作品に出会うと、(例えそれがどれだけ青くさい陳腐なものであっても)それだけで涙がでそうに感動し、愛おしく思うことがある。敬意を払わざる得なくなることがある。

そこには、他のものが存在することで成立する絶対的な孤独と、それに対峙しようとする(した)パワフルな何かが存在するからだ。

だから、そのようなことをあえて語り、最期まで「現世」との関わりを(生々しいほど)失おうとしなかった「彼」を、とても愛しくも感じる。もしかしたら単に(その関わりを)失えなかっただけなのかもしれないけれど、それでも、それは賞賛したいと思う。

けれども、映画全体としての印象となると、雪に歓喜する場面がまさに映画ならではの美しさに満ちあふれていたこともあって、できればそこで映画を終わらせ後の物語はもっと省略して欲しかった。そちらの方が、さらに印象深い作品になったのではないかと考える。

長編をねらった散文ではなく、上質の短編こそをストレートに射抜いてほしかった。

(評価:★4)

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