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[コメント] 乱暴と待機(2010/日)

さながらツイスターのようにひねられくねられる関係でつながる彼ら。彼ら4人の登場人物が面白くって見飽きない。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この4人の見事な出来栄えは、すでに戯曲、小説と、複数のアプローチがされることによって輪郭が明瞭になっている、山根、奈々瀬、番上、あずさというキャラクターたちの面白さがあって、そこへ浅野忠信、美波、山田孝之、小池栄子というアイデア豊富な役者たちによって完璧に仕上げられたという感じだ。正直それほど面白いストーリーかと言えばそこまでとは思わなかったのだけど、4人の登場人物たちが面白くて、彼らを見ることだけでだいぶ満足したのだった。

この物語は現在のディスコミュニケーションのひとつの姿を描いたものだと思う。「なりたい」と思う「本当の関係」に到達できなくてモヤモヤしている2人っていうパターン。奈々瀬と番上のセックスを覗き見した山根が、夜の商店街や長い踏切を足をひきづりながら疾走し、公園のベンチの下に頭を突っ込んで泣き伏してしまうシーンや、「思ってもいないこと」を告白されて嗚咽をかみ殺す奈々瀬のシーンなんかを見ると、この物語は本来そういう2人の心情的なものにもっとコミットされるべき物語だったのかなあ、と思う。

擬似兄妹を主人公とした2人の物語を全面に出すなら、番上とあずさは山根と奈々瀬を際立たせる常識人キャラに徹していたほうがわかりやすかったと思う。しかし、番上の過剰なだらしなさ、あずさの過剰な憎悪が、いつわりの関係を結ぶ山根と奈々瀬の過剰さを時に凌駕してしまうことが、現在の人間関係事情の面白さであり、特殊な擬似兄妹というほうのテーマのぼやけを生んでいる、と思う。(何といっても一番面白いのが4人で「ゲーム人生」に興じるところなんだからしょうがない。)

別にテーマなんてどうでもいいんだと思うけど、この物語の落としどころがちょっと変わっていて面白かったので、少しそのことを書いてみます。

この物語は「本当の関係」をようやく見つけた2人が結局もとの「いつわりの関係」を選択する。「本当の関係」を探り当てたうえで、そんなものは「本当ではない」と言っているように見える。また、「思ってもいないこと」が実は「本心」であるという定石を見せておいて、その「本心」には価値がない、と言っているように見える。むしろ2人のモヤモヤしていた間の関係こそが、2人にとっての「本当の関係」なのだと結論づけているようだ。

それがそうだったとしても、それの意味することっていうのが最初よくわからなかったのだが、これは作者が現在の世の中に向けて、「いまみなさんが抱えているギクシャクした関係や、モヤモヤしたわだかまりを否定しないで、それをそのまま受け入れましょう」というメッセージだったのかな、となんとなく思い始めた。ギクシャクやモヤモヤの一因は「こんなはずじゃない、もっとあるべき理想の関係があるはず」という思いの行き過ぎにあって、それが目の前の他人との関係を否定的に見てしまうということが、現在の人と人の関係を結びづらくさせてしまっているのではないか、という思いがあるのではないか。

なるべく相手のことを知りたくないと思いながら付き合うのが現在のトレンドなら、それはやっぱり他人と付き合うことによる「本当の自分」への影響を恐れるからだろう。別に「本当」なんてどうでもいいじゃん、というスタイルの提案こそが、ディスコミュニケーションを突破するのかも、ってのがこの作品のテーマなのかなあと思った。

(評価:★4)

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