[コメント] 楊貴妃(1955/日)
溝口作品(この監督の場合は特にこう呼びたい。撮影スタッフも脚本家も 技術スタッフも一体になったよさというのを体感できるから) のなかでは、必ずしも評価の高い作品ではないだろうし、 それも納得するのである。
まず、ちゃきちゃきの江戸っ子言葉で日本人が中国人を演じることに 違和感を感じるひとは多いだろう。それにストーリーもこれみよがしの メロドラマで、最後まで見て引いてしまうのは僕だけではないだろう。 またもちろん史実にも忠実ではないので、そういう見方にも向かない。
ところがいいのであるこの映画。何がって? それはこれがあくまで日本人によるあまりに日本的な、古代中国追慕 の映画だから。例えば玄宗皇帝の弾く琵琶(あの丸い琵琶の名称失念しました) あれは正倉院のと同じものです。デザインや螺鈿細工も。 それと唐服、皇帝の周りの道具、 暖簾の文様(蝋けち染め)など、正倉院がモデルかと思うものがたくさんある。
楊貴妃の逸話は、古来から日本人の心を魅了してきたもの。その魅了を 臆すところなく形にしたのがこの映画。だから最初から 最後まで幻想の空間なんだけど、その幻想性がこういった細部に たくさん見つかるんです。というより、これが幻想の世界だということを 部分的に強く感じさせてくれる。
するとこの映画がカラーでなければならなかった理由もよく判ります。 白黒ではこういった道具に魅了されるなんて不可能です。 だから現代のカラー映画とはまったく別の、カラーである必然性をもった カラー映画といっていいでしょう。
あくまでカラーへの実験的意図もあった映画なんでしょうが、そう考えていくと このメロドラマ、なんともいえずいいです。
主演の二人は最高の演技をしているのはいうまでもない。こういう 気品のある京マチ子もなかなか素敵ですね。
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