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[コメント] 父親たちの星条旗(2006/米)

戦場で露出する人間の善と悪よりも、銃後のそれに焦点を当てた作品。その趣旨は、どっこい人間性の肯定にあるはず。
G31

 戦争・戦場は一種の極限状態である。そこでは人間の活動に尋常ならざるレベルが要求される。そして実際に人間が尋常ならざる活動をし得る。その人間をわれわれは英雄と呼ぶことができるし、しばしば実際にそう呼ぶ。戦争映画では、こういう英雄像をドラマ化した作品は少なくない。なぜなら、人びとは英雄に熱狂するからだ。

 クリント・イーストウッドが本作で描くのは、そういう英雄像そのものではない。英雄という存在を否応なく必要とする「戦争の仕組み」みたいなことを描いている。人びとは英雄に熱狂する。熱狂した人びとからは資金を集めやすい。戦争を遂行するには、どうしても資金が必要だーーみたいなことである。その中で「英雄」の一人は、自身は真の英雄ではないと知りつつも、真の英雄の存在を人びとに伝えるのが自分の役目と割り切り、職務をまっとうしようとする。別の一人は、自身は真の英雄ではなく、真の英雄は別にいると知るがゆえに、自分が英雄扱いされることに居心地の悪さを感じ、心を病んでいく。

 摺鉢山に星条旗を立てるあの有名な彫像の背後には、こんな知られざるストーリーがありましたーーてな体裁をとりながら、こういう奴いるよな、こういうこと起こりそうだよな、という感じで物語が展開していく。僕なんかには、これは人間の営みの延長線上に戦争を位置付けようとする試みに思えました。そしてその趣旨は、それでも人間という存在を肯定することにあるのだと。僕なんかは、やっぱりそれで癒やされるし、癒やされる範囲に収まる映画かなあと思いました。

23/6/11記

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

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