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[コメント] ビューティフル・マインド(2001/米)

世界に「法則の解明」で向かい合ってきた男のロスト・イン・ソリューション。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「知りたい」と思うことは多くの人間にとって生きる上での希求である。彼の場合、ひときわそれが強く、自分が世界の中で怖れながら生きずに済むために、世界の見えざる法則を片っ端から見つけ出すことで、世界に対し常に優位でありつづけようとした。もう、そういうふうに生き始めちゃって、いい年まである程度うまくきてしまったら、人生とはそういうものであって、他の生き方なんて想像することすらできなくなるだろう。そんな彼が病気になり、治療のために「反復するパターンを見つけ出すこと」を禁じられてしまった。それは彼にとってすなわち「想像することや、夢を見ることを禁じられた」のだった。それは画家が視力を失ったり、スポーツ選手が体の機能を麻痺させてしまったこと以上の打撃ではなかったろうか? なぜならそれは「知りたい」につながる人間の生き方のもっと根源に近い位置にあるものだからだ。

数多のフィクション・実体験の中で、人間はいろいろなものを喪失するドラマを演じてきたが、これだけは奪えないものとして「夢をみること」「想像すること」はあったように思う。まさか、それまでもが奪われてしまう状況があるのか?ということを見せてくれたことが、本作で一番惹かれたところであり、その絶望を克服する手段なんてあるのだろうか? を問うことが本作のテーマだったと思う。

その答えは彼のすぐそばにあってそれが妻の愛だったと。なーんだ、というようなものだが、想像力にしても夢をみることにしても、それは個人の力に依存する。そういうものしか信じてこなかった人間にとって、他人からの力を受け入れるなんて、まさに盲点だったのだと思う(そんな思考回路が生み出す妄想の友人)。今の自分があるのはすべて妻のお蔭であると述懐するにいたった時、彼の心はきれいに洗われていくような気持ちになっただろう、新しい「解」を見つけた時のように。人間が人生に新しい価値を見出すきっかけとなる出来事、本作はそういう本質的な部分が描かれているゆえに素晴らしく、単に「愛こそ至上」とかを言っているわけではないと思う(まあそうも思わせることができるあたりがさすがハリウッドの「よくわかっている」ところなのだ)。惜しむらくは数学が世界を解明していく魅力がもっと描けていれば、数学者である彼がどんなに重大なものを喪失してしまったのか、もっとズシンと響いたのだろうが、Wikipediaを見たくらいじゃ均衡定理なんてちっともわからない。暗号解読くらいで済ませたあたりがやはり上手。

(評価:★4)

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