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[コメント] ムーラン・ルージュ(2001/豪=米)

歌うニコールユアンに喝采を!──大画面がなかったら、映画館に足を運ぶしかない。それは、高水準の作品だから……というわけでもないのはフクザツ。それでも! 米粒に写経をしたような、パラノイアックな細密描写を黙って見逃すテはない。
かける

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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■存在するもの、欠落していたもの

圧縮凝縮されたモンマルトルの丘の街並、世界観を絢爛豪華に、そしてキッチュに繰り広げたセット。スクリーンにこれでもか! と矢継ぎ早にあらわれる仕掛けとイタズラは、まさに見る者に息つく暇も与えない。もし、音楽が全くなかったとしても、視界から飛び込んでくる情報量だけで、網膜と大脳はパンクしてしまうかもしれない。

そしてもちろん、音楽だって負けてはいない。これはミュージカルなのだ。懐かしかったり、うれしかったりする曲たちが、まさにオンパレード! 特に洋楽のファンではなかったとしても、口ずさめる曲も多いだろう。それをニコール・キッドマンユアン・マクレガーは吹き替え無しで熱唱し続ける。

この歌唱がすばらしい! もちろんプロの歌手のように上手い、というわけではない。でも、これがなんとも味がある。正直映画館では「結構歌えるんだなあ……」といった程度で右の耳から左の耳に素通りしてしまっていた。ところが……その後、テレビ番組などでBGMに使われたりするのを耳にしているうちに、だんだんジワっとしみてきた。何ヶ月も経ってから無性にグッときてしまった。そんな「味」のある歌唱だったのだ(例えば02/04/15のニュースステーションのスポーツコーナーで、ユアンの「Your song」)。

これほどに後からになってサントラが欲しいと思った映画もめずらしい。今さら探しに行こうと思っていたりする(まさか権利の関係で収録してなかったり……しないよね?)。映像から独立していても、そのペーソスは伝わってくるはず。そして、多分DVDで観たときに聞こえてくる歌とは、違ったものとして受け取れることだろう。

ところが……

そんな熱唱をスポイルしてしまうのが、バックの「上手な劇団四季」といったレベルの群舞だったのだ。雰囲気だけを楽しめば満足できる……と言い切るには、セットも楽曲もいささか立派すぎてしまった。

中途半端なダンスが、シロアリのように作品世界を侵食していく……エンドロールまでに、この甘美な作品世界が倒壊してしまうかどうかは、見る側のプライオリティーの配分にかかってくるだろう。「これはミュージカルだ!」と前のめりになって見ていた私は、劇中の展開より何歩か先に、ムーラン・ルージュそのものの崩壊を迎えることになってしまった。

部分的には『ショー・ガール』のコーラスラインの方が上か? といったクオリティだったのは、本当に残念(ダンスの中で唯一見どころだったのは、公爵の♪ライク・ア・ヴァージンのバックで踊っていた男性たち)。

ダンス映画にはダンス無し──という自説を持っている私にとって、その思い込みが補強されてしまった点だけは残念。

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重要なキーにもなっているクイーンの『Show must go on』。この曲に関しては、より高度なダンスとの融合にモーリス・ベジャールのバレエ作品『バレエ・フォー・ライフ』がある。

これは、くしくも同じ年に亡くなったフレディ・マーキュリークイーン)と、ジョルジュ・ドン(『愛と哀しみのボレロ』)に捧げられた、哀しくも美しい壮大な叙情詩である。

(評価:★4)

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