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[コメント] 典子は、今(1981/日)

三上寛の大フューチャーが素晴らしい。いやに普通のフォーク曲を延々弾き語りして辻典子とデュエットまでするのだ。三上ファンにはお宝映像だが、一般の観客はこれに納得したのだろうか不思議。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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本作の主題は障碍者の自立であり、後半の辻典子のひとり旅が、妹を可愛がり過ぎて失った三上寛の反省とシンクロする。これは、社会の告発という通常の社会派映画、例えばこれまでの『名もなく貧しく』等の松山映画とも、山田洋次の『学校』シリーズともスタンスを異にするものだ。当時すでに美智子妃とも親交を結んだ松山夫妻の、保守的な障碍者支援というニュアンスが感じられる。

無論、どちらか一方だけが正しいというものではないのであり、本作(収入14億円の大ヒット作らしい)が告発型の映画の不足を補ったという意味合いは大きかろう。足技の連発描写は、社会に対してのPRの要素も兼ねているだろうし、障碍者を受け入れた学園は素晴らしい。障碍者が福祉事務所に勤務するのは、社会の在り方としてとても素敵だ。本作は障碍者受容の成功例であり、失敗例と並んで記録すべき価値がある。

本人が当人役を演じる、という方法論は演劇の在り方として色んな感想が浮かぶ。東陽一が自分の演出論として、演技をするな、表現をしろと(ラジオで烏丸せつこ!に向かって)語っていたのを思い出した。辻典子が松原典子を演じている、と云っては嘘が混じるだろうが、松原典子を表現している、と云うならこれは適任だろうと思う(なお、本作の典子の「演技指導」は凸ちゃん)。

松山映画としては、「劣勢遺伝」が主題の『父と子』で障碍児をややつまみ食い的に扱ってしまった反省が、本作の主役抜擢に繋がっているとも取れる。80年代らしい基本ベタな映画だがときどきいい画がある。渡辺美佐子が癇癪を起して典子を道端に置き去りにするショットがいい。本作の白眉は終盤の典子のひとり旅で、腕がないと旅行はいかに不自由かを教えてくれる。典子は愛敬があって忘れ難い人。映画が進むにつれて彼女に腕がないことを我々は自然に受け入れている。これは彼女の力だろうか、映画の力だろうか。観終えた頃には、我々は自分も障碍者と共生できるとの自信を少しだけ得られるのであり、この点本作は得難い作品。★5の所以である。本作最大の欠点は樫山文江さんの出番が余りにも少ないこと。

(評価:★5)

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