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[コメント] A.I.(2001/米)

こんな凡作にキューブリックの名前を宣伝として使って欲しくはなかった。(レビューはそれでも1点じゃない理由)
さいた

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







キューブリックファンの僕には点数を付けるのもはばかりたい作品ですが、捉え方を変えると面白く感じる部分もありましたので2点にさせて頂きました。その理由はこの文章の最後にて・・・。

兎にも角にも、いい加減な描写と物足りなさを感じる作品です。セックスロボットやプッシーの館を出してはみたものの、あまり細かく描写してしまっては子供に見せられないR指定になってしまうので、描き方が中途半端になってしまったと言わざるをえません。中途半端になるくらいならば出さない方がマシだと思います。

そしてママが家に来たロボット(デイビッド)を徐々に好きになっていくシーンも描写が足りません。一見、自然な流れに見えますが、実はそこには落とし穴があります。それはママが低温保存されている実の子供の事を心配しているシーンが描かれていない事です。普通の母親だったら、食事中だろうが子供型ロボットが来ようが、重い病で倒れた子供の事は片時でも頭の中から離れないと思います。ママにデイビッドの事を短期間で好きにならせる為に、重症の子供の事をあえて描かなかったようにしか思えません。これはスピルバーグの確信犯的創りだと思いますが、納得できないシーンでもあります。

次に重症のマーティンが奇跡的に治るシーンも信憑性がありません。それまでの医者とのやりとりを一切描かずに、この展開ではあまりにも唐突すぎます。ストーリー上、マーティンはデイビッドと絡ますために必要なキャラなので、”奇跡”と言う安易な手段で治させただけとしか思えません。

そして尤も呆れ返ったのは、マーティンがデイビッドに「ママの髪の毛を切って来い!」と言った台詞。意図は両親に不完全なロボットとして嫌われるための演出なのですが、あまりにも不自然すぎます。何故ならば、仮にその行為がデイビッドに対する嫌がらせだとしても、”自分の本当の母親”の髪の毛を切れ!とは言わないと思います。(例外として、ある種の子と母親との確執があれば別ですが、残念ながらA.I.ではそのような描写はありません)このシーンはマーティンの感情を完全に黙殺しています。本当に酷い創りです。髪の毛はラストの伏線だったと言う事も理解できます。ですが、このような不自然な伏線は、監督がラストのオチを考えた末に、とって付けたと考えても否めないのではないでしょうか。

さて、デイビッドが捨てられてからのアドベンチャーシーンは、もはや子供だましとしか言いようがありません。ロボット達が人間たちの前で破壊されるシーンはリアル感が全く無く痛々しさも皆無。おもちゃを破壊しているだけのような感じにさえ見えます。仮に子供向けにリアルな表現を和らげたと言うのならば、非子供向けのセックスロボットは作品自体に出さなかったはず。監督の意図が理解できません。

しかし!

ここまでは凡作どころか駄作の部類に入ると思いましたが、最後のシーンで観方を変えざるをえませんでした。それは海底に沈んだ遊園地(ディズニーランド?)で、デイビッドが人形の青い妖精を発見するところです。そこでデイビッドは本当の人間になれる事を信じて深い海の底で静かに眠りにつきます。

実はここで初めて気づいたのですが、色々な点で構成や演出や人物描写がデタラメでも、デイビットの心理描写だけは良く描けているのです。そしてスピルバーグが描きたかった事も、この辺りでようやく見えてきました。一般的に子供が母親に捨てられたとしたら、心が荒んだり歪んだりするでしょう。ですがロボットのデイビッドは純真無垢なゆえ、それでもママを愛し、そして一緒に居たいと思い続けます。

その気持ちが一番良く現れているシーンが、ラストの一日だけママと暮らすところです。自分だけを愛してくれるママ、そしてママを心の底から愛しているデイビッド。愛があれば一日だけでも幸せなのかもしれないと思わせる良いシーンです。これが小さな子供の本能ではないでしょうか。子供が母親に愛されたいと思う気持ちは森羅万象の真理だと思います。子供は母親に愛されたい、そして愛したいと思うのです。

「人間には本当の愛があります。でも本当の愛とは何でしょうか。それは相手に裏切られても貫ける愛でしょうか?」

「ロボットには本当の愛がありません。ですが貫きとおせる偽愛を持っています。これこそ愛の真理ではないでしょうか?」

全編を通して許せない程の不自然な設定だらけでしたが、ディズニーを愛するスピルバーグならではの「愛とは何か?」を考えさせられただけでも充分な作品になりました。キューブリックファンの僕には点数を付けるのもはばかる作品でしたが、このような意味を含めまして本来ならば1点のところを2点とさせて頂きました。

(評価:★2)

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