[コメント] 妻よ薔薇のやうに(1935/日)
世の中女の配慮で回っているのだ、という世界観が端々に滲んでおり、この滲み具合の濃淡の色合いが抜群だ。タイトルは刺すような皮肉。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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党派代表が寝返って帰ってくる話だ。痛快である。世の中、我が家我が党我が会社に忠誠を誓って一生を終わる奴のいかに多いことか。国会中継の詭弁はこれを先鋭化したものであるが、あれは我が身の陰画だったりする。さすが新派劇、ありえないような話を義理と人情でひっくり返して堂々の傑作。
丸山定夫のひとり『黄金狂時代』は物凄い設定で、真面目に受け取る必要など更々なく、要はとんでもないバカなのだ。何やっているんだと怒りたくなるのは、親身に世話する二号家族のリアリティのせいで、その世話もそもそも馬鹿らしいと云ってしまえば情の世界は崩壊するのである。その他、恋人の大川平八郎も先方の息子伊藤薫も、叔父の藤原釜足だって出来の坊として描かれる。世の中女の配慮、女の情で回っているのだ、という世界観が端々に滲んでいる。
陽気な喜劇の序盤から次第にヤルセナキオになる構成が優れている。戦前の成瀬は凸ちゃんほか、快活な女性に王様は裸だと云わせる役回りを好んで指定しているが、本作の千葉早智子のモガ振りは一頭地を抜く素晴らしいものだ。ラストに突然冷淡になる呼吸がいい。全く、女としては負けなのだろう。歌に加工することでしか情を示せない伊藤智子の造形の寂しさが一番印象に残る。タイトルは刺すような皮肉。棘ある薔薇とは彼女のことに違いない。
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