[コメント] 荒野の決闘(1946/米)
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公開版で追加されたラストのキスシーン。キャラクターの生理を逸脱したこの行動を正当化するのがザナックの意図であった。そのためにカットされた名場面の筆頭は、手術シーンにおけるドクとクレムの簡潔なやり取り、そこに深い絆を感じたアープの哀愁漂う表情だ。
クレメンタインは、ドクの身体を案じてやってきた郷里の女という程度ではない。彼の人間性に惚れ、愛情の上に信頼を重ねた深い絆を育んできた歴史があるのだ。そんな彼女にとって、アルコールで自己逃避するドクの姿を見るのはなによりも辛い。
チワワを執刀するドクは、再び人間としての尊厳を取り戻した。クレムが愛した彼の姿がここにある。医療という職業倫理を通じた両者の信頼関係がシンプルに描かれ、その背景に沈むアープの佇まいが、今でいうところのイーストウッド風ライティングによって、端整に浮かび上がる。アープがクレムに心惹かれるほど、その向こう側に位置するドクへの敬服が増すのである。
ここをカットするとどうなるか。ドク−クレムのラインが消滅し、ドク−チワワの関係性に焦点があたる。だからアープ−クレムのロマンスの余地が生まれてくる。酒場の花から主役の一角に昇格したチワワは、別のシーンでもBGMで飾り立てられ、あるいは男あしらいに長ける夜の女としての横顔を封印され、ドク一途の可憐なショーガールの位置に収まることとなった。
トゥームストンの生き生きとした町の風情もカットされ、アープの居る背景としての豊潤さも失われて、平板なキャラクタリゼーションの織り成すロマンス西部劇として仕立て直された。映画制作の実体を研究する意味でも実に興味深いDVDである。
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