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[コメント] チャップリンの移民(1917/米)

チャップリン印の健気な孤独といたいけな希望がポエジーを生むGOODサイレントドラマ
junojuna

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 チャップリンがタイトルに込めた想いがドラマの濃度を決定づけた、舞台背景の空気感が単なる設定を越えて淡く切ない彼岸を思わせるそこはかとない良作である。チャップリンの人生にしみ込んだポエジーがいよいよ物語に裏打ちされて、これまでにはなかった拡がりを見せて実に抒情的である。チャーリーのキャラクター造形もまた深化しており、これまでにはなかったナイーブさを湛えて、画面から醸し出される優しさは少年のように無垢である。移民船がニューヨークに着くシーンでの女神像とチャーリーのカットバック。ここで見せるチャーリーの表情はどこかキャラクターとしてのチャーリーを忘れた表情で不思議に胸に迫るものがあり、作家の意図するところを越えたマジックは映画ゆえの奇跡として感動的である。そして極めつけにチャップリンは、きわめて映画的といえる“雨”を降らすに到る。映画は降りしきる雨を逃れて、二人にマリッジ・ライセンスをもたらすかというところで終っているが、本作を鑑賞し振り返るたびに、不思議とマイク・ニコルズの『卒業』が思われてならない。と思われれば、チャーリーがエドナやポーレットと手を取り合って往く姿は、どこか『卒業』のダスティン・ホフマンキャサリン・ロスを髣髴とさせる風情を湛えている。当然、こちらが先達なのだから髣髴というのもおかしな話だが、約束されていない未来へ歩み出そうとするその志向性が、同質の孤独と希望を滲ませて切なる余韻を生んでいるという映画の妙味を讃えたい。装置としてのドラマを越えた余韻が謳う逸品。

(評価:★4)

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