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[コメント] 機動警察パトレイバー 劇場版(1989/日)

私はこれをパターン化された邦画活劇へのオマージュであると思ってます。(大幅加筆)
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







可能な限りエンターテイメントを目指した構成。縦横無尽のカメラワーク。臨場感あふれる音楽。そして緊張感とツボを押さえた演出。と、実に素晴らしい内容に仕上がっている。

 これについては押井ファン友人との間に結構議論をした。私はこの作品、任侠映画におけるパターンを踏襲している。と主張。

 以降勝手ながら(一応)私がこう思っている。と言う前提の元、ちょっとフローチャート式に書かせていただく。●は一応パターンとして、状況的には流れ者の強い男が主人公で、用心棒の話としてと考えて欲しい。

●1.ヤクザ同士の抗争の最中ふらりと強い男がやってきて、大立ち回りを演じた挙げ句、弱小の組で杯を受ける。(一回目の、冒頭の盛り上げ)

○1.冒頭で謎の事件。それに続きパトレイバーの強さを見せ、特車二課第二小隊の面々がどれほど一般的に嫌われているか。オーバーワークの上に世間的な立場の弱さを見せつける。

●2.つかの間の平穏(ちょっとした恋心の話などが出る)。ライバルとの出会いと徐々に悪化する組の状態。(舞台背景の描写が主で大きなドラマは起こらない)

○2.特車二課の日常風景。松井刑事による事件捜査。レイバー暴走の手がかりを求め、奔走する遊馬と野愛の微妙な関係。

●3.嫌がらせなどにより、目立って悪化する組の状態。(耐え難きを耐え、忍び難きを忍ぶ。任侠映画にとっては最も大切な部分)

○3.ついに不安の原因を発見する遊馬。どれほど自分たちが絶望状態に陥っているか、南雲しのぶに語る後藤隊長。不安は最高潮に増す。

●4.ついに限界を超え、前面抗争を決意する組。(ここも大切。次に起こるカタルシスのため、一気に爆発する力を溜める)

○4.「所詮勝ち目のない戦い」を呟きつつ、皆に指令を与え、方舟破壊に送り出す後藤。嵐の中を決戦に向かう第二小隊の面々。

●5.活劇シーン。主人公の用心棒の鬼神の如き強さが爆発する。(カタルシス部分。この部分をいかに格好良く描くか、そのために今まで溜めに溜めておくことが大切)

○5.無人のレイバー相手の殺陣。ここに至るもまだ謎と、その解決によるカタルシスを出すのがこの作品の特徴か。

●6.最後にライバルとの戦いと、勝利。(ここで「良かった良かった」で終わる場合と、主人公が消えるパターンあり。最後に全ての罪をかぶった主人公が捕まって終わり。と言う場合もあり)

○6.アルフォンスと零式の戦い。そして大団円。

 以上勝手な解釈で書かせていただいたが、そう言う意味でこの作品はちゃんとパターンを踏んで作られている事が分かる(考えてみたら、このパターンは黒澤明の『椿三十郎』にも当てはまるな)。任侠映画で一番大切な“溜め”の部分がきっちり作られてるから、そう感じるのかも知れない。

 この作品、一度地に落ち、アングラ化した押井守と言う名前を再び高めるのに一役買った。現時点で日本アニメーション界を負って立つ人物の一人になったのも、結局はこの作品に関わっていると言って良い。先行するOVA版ではほとんど動くことの無かった(最大原因は予算にあったそうだが)レイバーを主役に押し立て、しかもこれを格好良く描くことが出来た、その実力は当然評価されるべき事。ただ、これは押井氏にとっては極めて激しいストレスだったらしく、自分を抑え、ここまでのものを作ったと言うことこそが一番評価されて然るべき。(実は同時進行で『御先祖様万々歳』と言うOAVを作っていたため、そっちの方でストレスを解消していたらしい)

 結局この作品は、押井守という人物が、自分を抑えることが出来れば傑作となり、自分を出すと失敗すると言う好例でもある。

 勿論カメラ・ワークにも特筆すべきものが多々ある。魚眼レンズに顔をくっつけて叫ぶとか、怪獣映画を思わせるアルフォンスと零式の静と動がめまぐるしく変化する戦いのシーンとか(ちょっと外したのはCGとの合成シーンだが、こればかりは技術的にも仕方なかったか)。ただ、なんと言っても一番評価したいのは松井刑事が船に乗って川下りするシーン。あれだけでこの物語の設定は概ね言い尽くしているようなものだ。あの描写は見事、と言う他無い。

(評価:★5)

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