[コメント] 男はつらいよ 寅次郎春の夢(1979/日)
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日米経済摩擦の80年代を見事に予見した作品。バブル期に貧困はなくなった訳ではなく、他所の国にしわ寄せが行っていたに過ぎない。このアメリカ人の行商の苦労が描写されるのがいい。これはレナード・シュレイダーの視点なのだろうか。寅さんはこと商売に関しては殆ど超人的であり、街頭で店を開けば必ず人が寄ってくる。喜劇なのだからこれでいいのだが、私などいつも食い足りない思いがする。
苦労するのは女だけ、他の困難は喜劇的に潜り抜ける。これは寅さんの造形がチャップリン直系だから当然なのであり、潜り抜けなければチャップリンにならない(寅さんのギャグ(特にパントマイム系)も基本チャップリンであり、本作でも後ろを向いてさんざアメリカ人の悪口を叩いたあと前を向いて進み出した途端にマイケルとぶつかる、というギャグなどはチャップリンそのものである)。だから改めてフーテンの苦労を語るにはマイケルというドッペルゲンガーを必要とした。
ドッペルゲンガーが倍音を響かせる本作はしみじみとした味があり、美しい。早朝の上野駅での寅とマイケルの別れなど、このシリーズらしからぬ映画の空気感が充実している。波風立つさくらの動揺も、凛とした佇まいの香川京子もいい。大物マドンナに監督がビビっているのが判るのが可笑しい。
残念ながら、ラストは画竜点睛を欠いている。帰国したマイケルから届く葉書が、さくら、寅と博宛とあるのはおかしい(ご丁寧にも横文字の葉書は一枚だけと示される)。彼は当然に、あれほどよくしてくれた三崎千恵子にも挨拶しなくてはいけない。この終わり方は不満、1点減点である。
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