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[コメント] 若き見知らぬ者たち(2024/日=仏=韓国=香港)

かなりの傑作だった『佐々木、イン、マイマイン』に比べると確かに見劣りがするし、描かれている内容にケチを付けたくなる観客がいるのも分かれるけれど、しかしこれも、力作であることは間違いない。少なくも画面造型に関しては、本作も充分に面白い作品だ。
ゑぎ

 ファーストカットから瞠目する。アスペクト比はシネスコサイズ(『佐々木、イン、マイマイン』はビスタだった)。部屋の中、男女の絵(子どもが描いた絵か?)。右へパンするが、オフで(画面外から)天気予報の原稿を読むような女性の声。たどたどしい。同時に、パンパン何かを打つ音。子供がミットをはめ、母親−霧島れいかがパンチ。約360度パンして、ドアから岸井ゆきの登場。左にパンを戻すと、子供は磯村勇斗に変わっている。

 このようなツーシーン、ワンカット、というか、もう一つの時間をワンカットのパンや移動撮影中に出現させる演出があと2度ほど出てくる。磯村がカラオケバーの店内からドアを開けて外に出ると、若い父母−豊原功補と霧島れいかと、子供の頃の兄弟のシーンになり、そのまゝ店内に戻ると、磯村がカウンターで眠っているのが映るシーケンスショット。ラスト近くのチャンピオン戦の最中にも、スパーリングする父−豊原と子供時代の兄弟を出現させる。

 本作はこれらを含めて、ゆったりとした移動撮影が頻出する映画だ。例えば冒頭の朝食シーンは、人物たち(磯村、霧島、岸井、磯村の弟−福山翔大)の回り、キッチンを一周する長回しの移動撮影だ(母親の霧島が卵かけご飯に醤油と塩を大量に入れる)。ただし、病院で働く岸井の顔面からゆっくり引いて見せるショットはズームアウトだ。ズームはこゝだけか。

 また、本作は拳銃を頭にあてる映画。タイトルインは、自転車に乗る磯村が唐突に拳銃自殺し、道に横たわったロングショット。拳銃を頭にぶっ放す、あるいは、ぶっ放される人物は、磯村含めて3人おり、後頭部に銃身と見紛わせるカタチで指を突きつけられる人物は2人いる。

 最初に書いた、ケチを付けたくなる内容の最たる部分は、磯村の友人−染谷将太の結婚パーティの夜、カラオケバーに3人の客が入って来た場面からの展開だろう。これはワザとらしいにも程がある、と私も思うが、特に警官2人−滝藤賢一東龍之介の描き方が酷い。終盤に滝藤が駐車場で立ち尽くしていたり、東が風呂場で髪を洗いながら、叫んだり慟哭したりする場面を挿入する感覚も白々しい。

 最後に、やはり福山翔大の試合シーンのことは書いておきたい。入場から2ラウンド後のインターバルまでをハンディカメラで撮ったシーケンスショットだ。インターバル中、観客席を映したショット挿入で一度カットを割るが、3ラウンド目も同様にワンカットで収めている。しかも格闘は段取り芝居でなく、ほとんど本気に見える。どういうディレクションを行っていたのだろうといった現場の事情も気になるが、とにかく凄い迫力だ。このようなパラノイアックな暴挙を思いついたとしても実現するのはタイヘンなことだろう。長回し自体は目的でなく手段であり、目的に奏功しているかどうかは意見が分かれるかもしれないが、私はこんな突出した演出を実行してしまう、ということだけでも一定の評価をしたくなる。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

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