[コメント] バカ塗りの娘(2023/日)
父親は小林薫で兄は坂東龍汰。兄は家を出て弘前で美容師になっているのだろう、家に帰って来た際には堀田の髪の毛を切ってくれたりする。母親は中盤になるまで出て来ない。
タイトルの「バカ塗り」は津軽塗の馬鹿に丁寧な作業工程から来ているのだが、主人公ミヤコ−堀田のちょっと要領の悪い、頼りない、おっとりとした感じの性格にもかかっている。でも、お祖父さん−坂本長利のいる老人ホームのシーンでは、その優しさがよく伝わるし、あるいは、隣人の木野花にスマホの使い方を教えるシーンなどもあり、バカは云い過ぎの形容、バカではない女性だとすぐに分かる。
まず、前半では、小林と堀田、2人の漆塗りの作業を延々と映したシーンがいい。小林と堀田がちょくちょくお互いの顔を見たりして、気遣っているのがよく分かる。漆器の変化の面白さもあり、ずっと見ていられるシーンだ。
そして、堀田が、花屋の店員の男性−宮田俊哉を気にする(恋心だろうと思わせる)場面をいくつか挿入した上で、兄の坂東が会って欲しい、という人を連れてくるシーンになる。それが花屋の宮田だった、というのは驚きがあるし、プロットのギアシフト感も大きい、とてもいい構成だと思った。こゝで、父親の小林の、息子の性的指向に対して、驚きや、わだかまりが全く描かれないのも思慮深い。
この件について先に書いておくと、中盤登場する母親の片岡礼子も、息子−坂東の同性愛自体へは何も反応せず、宮田にもとても丁寧に接する。しかし坂東の、父母(小林や片岡)に対する態度から、過去には何か修羅場があったのだろう、その上で小林も片岡も、坂東の性的指向については受容しているのだろうと思わせる。これも非常に奥深く上手い作劇だと思う。
といった、プロット構成の上手さ以上に、私がこの映画を称揚したい点は、上にも書いた、漆器づくりの作業場面の美しい光だとか、廃校(小学校)に置き去りにされているグランドピアノに、堀田が一人で漆塗りをする一連のシーンなどの美しい照明・撮影だ。照明は名手、秋山恵二郎。母親−片岡と堀田の会話場面が、こゝだけ小津みたいな正面バストショットの切り返しで演出されているといった呼吸もいい。あと、小林の唐突なハエたたきだとか、こういうニヤケさせる演出も好きだ。こういった演出をもっとやっても良かったと思う。この監督、いずれ化けると予想する。
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