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[コメント] ベネデッタ(2021/仏=オランダ=ベルギー)

これは力のある作品だ。それは何と云ってもベネデッタの人物造型における、型破りな太々しさの一貫性に拠るところ大だと私は感じる。
ゑぎ

 私の感覚で、本作で描かれている事柄を素直に見て解釈するに、彼女は聖なのか悪なのかというと、それは間違いなく聖だろう。彼女は、修道院長のシャーロット・ランプリングやその娘のクリスティナ−ルイーズ・シュヴィヨットらにあるような猜疑心や虚言、嫉妬、怨恨といった感情とは遠く離れている。また、ベネデッタはいわゆる奇蹟を起こす聖人なのか。これもその通りに描かれているだろう。少女時代から何度も奇蹟のような事柄が画面化されて見せられているのだ。手足や脇腹の聖痕も、額の傷も彼女が自演したものではないだろう。

 では、聖なのか俗なのかと問われると、これはなんとも複雑な気持ちにさせられるのだ。それが本作の太々しさの所以でもある。しかし、作り手は、性に奔放であることが、聖と相反するものではない、ということを力強く描いているのだと思う。私は、あくまでも、何を描くかよりは、どう描くかに関心がある観客なので、そのテーマ性の首肯はいったん置いておいたとしても、これらのベネデッタの描写のブレない一貫性には心揺すぶられた。特にエンディングのベネデッタの大胆さの演出には、打ちのめされるような感興を覚えた。この終わり方は圧巻だと思った。

 また、撮影の特質で感じたのは、ロングショットからフルショットは固定が多いが、ウエストショットぐらいからの寄りの画面は、ほゞ手持ち、という使い分けで統一されている点だ。これにより、引いた画では、突き放した視点を感じさせ、寄った画面では人物の感情に肉迫し、その情動を観客に突き付けるような効果を上手く醸成していると思った。上でベネデッタは聖かどうか、というような観点で記述したが、多くの場面で彼女の感情の起伏は赤裸々に描かれていると思う。本作のカメラワークも、その赤裸々さの定着に寄与しているだろう。例えば、何度か突然豹変したように激昂して声を荒げる(悪魔がとりついたようにも見える)場面があるが、これらの演出なども強化して見せているだろう。

 あと、俳優だと勿論タイトルロールのヴィルジニー・エフィラが圧倒的に素晴らしい。この人は『エル』(2016)の脇役でもいいと思ったが、今後、さらに活躍するだろう。他にもベネデッタのパートナー、バルトロメア役のダフネ・パタキアや、上に書いた修道女クリスティナ−ルイーズ・シュヴィヨットも美しい女優だ。綺麗さだけで云うと、シュヴィヨットが一番綺麗だと思った。この人たちも今後が楽しみだ。そして、本作のストロングポイントとして、シャーロット・ランプリングが序盤から終盤までずっと出番がある、という点も大きいだろう。この人が画面に緊張を与え続ける。もう一人のビッグネーム、教皇大使のランベール・ウィルソンも、その登場から俗っぽい人物を上手く出しているとは思うが、若干類型的に思う。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)トシ ひゅうちゃん ペンクロフ[*]

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