[コメント] 空白(2021/日)
全編に亘って吃驚するような演出は、ほゞ無いのだが、しかし、スクリプトの力だけではない、剛腕を感じさせる演出だ。演出で吃驚したのは、轢死シーンの情け容赦の無い描写ぐらいか。
自殺の見せ方のカッティングにも唸るが、これは、設計の問題(功績)と思われる。本作も、ほゞ全編手持ちカメラによる撮影だろう。主観カットは記憶に無い。冷徹な眼差し、客観描写で徹底している。
構成として、松坂桃李のキャラが最後まで変わらない、というのが意外性があって良いと思った。この人も最後はもうちょっとしっかりするだろうと思いながら見てしまうじゃないですか。対して、古田新太の変化は妥当でしょうが(こうしないと終われないのは分かるけど)、松坂に比べると、ありきたりに感じてしまった。ただし、その変化へ繋げる方便として、葬式での古田と片岡礼子のやりとりがあるのは上手いと思う。片岡の真っ当さ。こゝで、古田のリアクションが隠蔽されるのは、作劇的に意味があるだろう。尚、藤原季節も相変わらず上手いが、甘い。さらに焼き鳥弁当のファン−奥野瑛太登場は、甘過ぎるように私は思う。
また、タイトルの「空白」は見終わった時点ではピンとこず、素直に「不寛容」(英米向けタイトル?)で良かったのではないかと思った。古田はもちろん、松坂も(お弁当のオーダー間違いで)、寺島しのぶも(ボランティアの炊き出しシーンで)キレる場面が盛り込まれており、これらも作劇臭いとは思ったが、タイトル「不寛容」ならば納得性があると感じたのだ。しかし、見終わってしばらく考えていて、エンディングで担任の先生−趣里の運んできた物、焼き鳥弁当のファンの言葉が表すものの意味が胸に迫って来た。「空白」も、いいタイトルだと思えて来た。
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