[コメント] いとみち(2020/日)
例えば、彼女が青森駅から「津軽メイド珈琲」の店を探して歩くシーンの独白なんかでも、何を云っているか全然分からない。しかし、これが面白いのだ。映画全体を通しても、多分、聞き取れているのは半分ぐらいだと思うが、本作の良さは、この半分くらい聞き取れない津軽弁だ。
柳島克己の撮影もいい。終始安定した画面だ。何度も挿入される、雲をいただいた岩木山。板柳町の近隣の風景、リンゴ農園など、自然描写のカットが素晴らしい。あるいは、例えば、駒井蓮が、家出して、同級生、ジョナゴールドの家に泊めてもらうシーン。狭い部屋での二人の会話を長回しで見せ、私は、切り返さないなぁ、と思って見ていたのだが、二人が立ち上がって、駒井が三味線をかきならすまで、ワンカットで見せるのには驚いた。
あと、主要登場人物は皆、いいキャラばかりで気持ちがいい。父親役の豊川悦司はもとより、カフェの店長の中島歩、先輩の黒川芽以、横田真悠、そしてオーナーの古坂大魔王も同級生ジョナゴールドも。しかし一番は矢張り、お祖母さん、 西川洋子だろう。駒井と豊悦2人に、頭冷やしてこい、という場面のカッコ良さ。餅?のおやつを渡す反復の面白さ。
さて、メイドカフェに対する存在意義の自問もさらっとではあるが、ちゃんと描かれていて周到なのだ。男への媚びなのか。メイド服の可愛らしさへの憧れなのか。もっと普通に、働くことの喜びか。
本作のマーケティング上の売りは、津軽のメイドカフェ、あるいはメイドと三味線(三味線ライブは迫力満点!)、といったミスマッチだと思うのだが、しかし、本作の価値として優位なのは、矢張り最初に書いた、多くの観客が、半分くらい聞き取れない津軽弁をそのまゝ字幕も付けずに提示することだと私は思う。これでも映画の面白さは傷つかない、ということなのだ。
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