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[コメント] 幽霊暁に死す(1948/日)

教会の尖塔、十字架のカットから始まる。司式者と新郎新婦だけの結婚式。長谷川一夫轟夕起子。二人の仰角カットが決まる。すると、窓(扉?)が開き、いきなり風が入る。揺れるカーテン。
ゑぎ

 教会を出て、歩く2人のシーンはとても明朗な、マキノ+轟らしいシーンだ。今から新婚旅行で熱海に行こう、お金がないので日帰りだけど、と長谷川が話し、日帰りも素敵、日本中で私たちだけね、と受ける。こういうところが素晴らしい。

 長谷川は学校の先生。横暴な校長の罷免決議の職員会議のシーン。校長は、首謀者は起立せよ、と言う。他の先生は日和って下を向いたまゝだが、長谷川だけが起立する。このシーンでも、窓が開き、風が吹き込む。書類が飛ぶ。こゝ、起立するまで、かなり尺を取る。子供たちの掛け声がBGMのように使われるのだが、とても不思議な感覚だ。

 学校を辞した長谷川は、叔父の斎藤達雄に就職の相談をするが、体よくあしらわれ、かつて、長谷川の亡くなった父の持ち物だった、10年釘付けになっている山奥の別荘へ行くことになる。こゝでも、長谷川と轟は、常に前向きに対処する。

 長谷川は、その別荘で幼児の頃過ごしていたので、近くに幼馴染がいる。これが田端義夫だ。田端の関西弁がきつい(関西人の私でも、聞き取りにくいレベル)。別荘は今では幽霊屋敷と云われ、誰も近づかない、と云う。あと、屋敷へ道案内をしてくれる巡査で、坂本武が登場する。坂本と3人で行く林の中の木漏れ日の表現は見事だ。坂本は怖くなって途中で引き返すので、結局、2人は日が暮れてから、幽霊屋敷に到着する。真っ暗な屋敷の中の2人。こゝ、けっこう怖い。恐怖演出も大したものなのだ。

 そして、長谷川の亡くなった父親(30歳で死んだ設定)が登場し、プロットはいよいよ本筋に入るのだが、簡単にだけ梗概を記すと、田端と坂本にも協力してもらって、斎藤たち親族を幽霊屋敷に集め、恨みを晴らすという展開になる。こゝで、重要な役を担うのが田端の父親役の花菱アチャコで、彼が出て来ると、独壇場になる。斎藤とアチャコの対決シーンは、全くアチャコの圧勝なのだ。尚、斎藤たち親族、と上には書いたが、中には、沢村貞子月丘千秋飯田蝶子徳川夢声といった有名どころもいるのだが、斎藤以外は殆んど目立たないのが、ちょっと寂しい。沢村が夢遊病のようになる場面があるぐらいか。大好きな飯田蝶子も、ビッグネームの徳川夢声にも見せ場がないのだ。

 さて、例によって、テクニカルな面ばかり、私は気になったが、長谷川の二役の見せ方も上手いもので、パンニングして、左右に長谷川を映すカットなんて、どこで繋いでいたのか分からないし、鏡を活用した演出も見事に決まっている。長谷川も轟も、驚くのは最初だけで、すぐに幽霊と仲良くなる、という大らかさがいい。また、父親の長谷川と息子の嫁の轟との心持ちは、恋愛感情にも見え、少し倒錯した趣があるのも面白い。

#田端義夫は一曲、轟夕起子には数曲、唄うシーンがある。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

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