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[コメント] ここは退屈迎えに来て(2018/日)

時間が丁寧に描かれる。時間はときに麻薬のように思考を曇らせ、少しだけ身の丈に過ぎた期待を若者に抱かせる。誰もが抱くあの時の未来への希望、過去の美化だ。その幸福願望の正体が、退屈なモラトリアムが招いた妄想だと気づいたとき、若者たちの青春は終わる。
ぽんしゅう

彼らは、やっとそこから「何者かに成り」始めるのだ。だから若者にとって時間は、とても退屈で、たいていは残酷で、少しだけ優しい。

2004年から2013年までの10年の「時間」を、自在に行き来する櫻井智也の脚本が巧みで観る者の思考を刺激し続ける。さらに、それなりに整備されつつも、どこか閑散とした半都会の情景のなか、ゆったりと走行する自動車やゲームセンター、ファミレスが漂わせる地方の空気感。そして、田園を疾走する高校生の自転車群や、夏服姿の生徒たちが三々五々たむろする放課後のプールの輝き、10年ぶりに訪れた母校の校庭でみせる私(橋本愛)とサツキ(柳ゆり菜)の解放感。ときおり、はさみ込まれる人物の顔のアップに浮かぶ感情の揺れ。

すべてが相まって、何者かに成りたい、成ろうとした、そして成れないことを“退屈”だと誤解してしまった若者たち(私を含め、たいていの若者はそうだったはずだ)の「時間」が見事に描き出される。時間が丁寧に描かれた映画は、それだけで面白い。当たり前だが、時間とは人にとって人生のことだからだろう。

(評価:★5)

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