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[コメント] 十年(2015/香港)

五つの短編からなるオムニバスだが、どれも総じて“青臭い”なという印象。青臭さとは剥き出しの真剣さのことであり、今、撮るべき課題が眼前にあるということは、それが国家や社会に対する負の素材だとしても、若い映画作家たちにとっては幸運なことでもある。
ぽんしゅう

●エキストラ(クォック・ジョン監督)・・・★★★

謀議の発端から結末へと向かう見えざる権力の意思の流れを、学校の建物の上層、中層、下層階という決して交わらぬ縦構造に象徴させて描くアイディアが面白い。モノクロ映像でドキュメンタリーのような緊張感を生み出す語り口も好み。結末のサプライズが予想の域を出ないのが残念。

●冬のセミ(ウォン・フェイパン監督)・・・★★

諦観が生む“単調”の繰り返しが、止まらない時間のなかである種の迫力を発散し始めたとき、記憶と日常の証しである歴史を失い続ける男と女の不安が伝わるのだろう。標本作りに没頭する男と女から、そんな覚悟が立ち上がらず、切実さが拡散してしまう。

●方言(ジェヴォンズ・アウ監督)・・・★★★

言語の強制ほど、あからさまな侵略行為はない。文化の否定という同化策が、生活という生きる糧を人質に捕って、あるいは新しさという根拠のない価値のもと、静かに社会を浸食していく理不尽さ。島国の我々にとって、最も縁遠くもあり、最も想像しやすい恐怖。

●焼身自殺者(キウィ・チョウ監督)・・・★★★

こんなストレートな中国批判ができるのは香港映画界がまだまだ健全な証し。その思いは、いささかノスタルジックで過去の抵抗運動を美化しすぎのように思うも、一国二制度という強大なシステムに浸食される1980年代生れ以降の香港の若者世代の不安の叫びとして、理解はできる。

●地元産の卵(ン・ガーリョン)監督・・・★★★★

その純真さゆえに何色にでも染まり得る子供に責任はない。いつだって一番の被害者は子供たちなのだ。文化大革命の再来の予感のなか子供の無邪気さに一塁の望み託す、安堵と不安。それでも、子供とは未来そのもののことであり、彼らに将来を賭けるしかなのだ。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)irodori[*] 3819695[*]

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