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[コメント] 港町(2018/日=米)

「生まれてしまったから しかたなくただ生きる そんな生き方オレには耐えられない」 (三浦建太郎ベルセルク』、グリフィスの台詞)
ペンクロフ

かつて若かった自分には、グリフィスさんの「夢に殉じる」近代人の自我といったものは実にしっくりくる話だった。しかし世の中の様々な面を見ながらおっさんになってゆく過程で、オレは「生まれてしまったから仕方なくただ生きる」人々も決してバカにできず、むしろ選択肢のない人生のえも言われぬ迫力に圧倒されることが少なくないということを学んだ、ような気がしている。グリフィスの台詞を聞いてしまったばっかりに、ガッツさんの人生もややこしくなったよな。

映画「港町」が切りとった散文的な世界は、瀬戸内で育ったオレには極めて馴染み深いものだ。この映画には「生まれてしまったから仕方なくただ生きる」人々がワンサカ出てくる。その訳の判らぬ凄みときたらどうだ。カメラの手前に隠れて顔を出さぬ監督とよく喋る嫁の「ニューヨークで暮らしてますねん」、この薄っぺらさはどうだ。

観察映画とはよく言ったもので、作り手には現実に介入して何かを変えていく気がまったくない。この監督の映画は1、2本しか観てないが、傍観者すなわち敗北者の諦念が画面を覆っているようにオレには見える。耳が遠く、足元もおぼつかず、魚もあんまり獲れない、死にかけの老人であるワイちゃん。世界的に高く評価されているドキュメンタリー作家でニューヨーク在住の監督がワイちゃんたち牛窓の「しかたなく生きている」人々に、「生きもの」「動物」「生命」として敗北感を感じている。いやホントに感じているかどうかは知らんけど、オレにはそう見える。そのへんが面白い映画でしたよ。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ぽんしゅう 寒山拾得[*]

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