[コメント] 戦慄怪奇ファイル コワすぎ! 史上最恐の劇場版(2014/日)
オレが好きなジャンルのひとつに、フェイクドキュメンタリーというものがある。幼い時分に『食人族』や「川口浩探検隊」と出会い、後追いながらヤコペッティ作品に触れ、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』の成功とそれが生み出した潮流をやや遠目に眺めてきた。『トロール・ハンター』は近年の傑作であったと思う。逆に出来のよくないフェイクドキュメンタリーは大嫌いで、松本人志のデビュー作『大日本人』などは酷評せざるを得なかった。自分のそこそこの経験から言って、真実ノンフィクションの純ドキュメンタリーにおいても「フェイク」の瞬間は存在するし、やらせ上等フェイクドキュメンタリーの中にもどうしようもなく「リアル」は存在するものだ。出来の悪い作品は総じて、このへんに無自覚なのですね。
常に金のないホラー映画というジャンルは金のかからないフェイクドキュメンタリーというジャンルと親和性が高いため、「ブレアウィッチ」の成功後は特にそのような作品が増えた。しかしオレは、「ブレアウィッチ」こそ劇場で観たもののその後のフォロワーはあんまり観てこなかった。だってホラー映画っていっぱいあるし、怖かったらイヤじゃないですか。
ここ1、2年ほどの間、「白石晃士監督のホラー映画は面白い」「特にコワすぎ!は面白い」という風の噂は聞いていた。それもけっこうな目利きの方々からそのような話が漏れ出ていたので、気になってはいたのだ。仕方ねーな、じゃあそろそろ観てみるか、ということでオリジナルDVD「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」シリーズを、現時点の最新作「戦慄怪奇ファイル 超コワすぎ! FILE-02 暗黒奇譚!蛇女の怪」まで観てみた次第。これがですね、まあなんちゅうか… クッソ面白かったんですね(小声で)。好事家たちが騒ぐのも当然だと思った。
ネタバレしたくないので内容には一切触れられないのだが、まともに「ホラー・フェイクドキュメンタリー」と呼べるのは1本目の「FILE-01 口裂け女捕獲作戦」ぐらいで、2本目の「FILE-02 震える幽霊」以降は観客の「値踏み」を大きく逸脱する展開を見せはじめる。ここまでいくのか、そこまでやるのかと驚きながら観ているうちに「どこまでやるねん…」と呆れながら観ていくことになる。ここに至ってはフェイクドキュメンタリーが絶対手放してはならない「リアリティ」すら放棄する瞬間も多々あり、本当に驚かされる。繰り返すが、正直言ってホラーとしてちゃんと怖かったのは1本目だけで、あとはもう「それどころではなくなる」としか言いようがない。特に「FILE-02 震える幽霊」から『史上最恐の劇場版』までの5本のヴォルテージの高さたるや、ちょっと記憶にないほどのものだった。
オレの感覚としては2008年頃に「マッスル」のDVDを一気に観ていた時期の、「ここまでやっていいのか」「この次はどうするんだ」「こんなことまでやっちゃうのか」「これをプロレスと呼んでいいのだろうか」と感じた動揺に近い。「コワすぎ!」はホラー映画における「マッスル」であり、「行こうよ!ホラー映画の向こう側」とDVDのパッケージに書いてあったとしても違和感を感じない類の作品だ。「破壊なくして創造なし」でもいいかもしれない。なにしろジャンルの根底を揺るがすエネルギーがあり、こういうものを作れる人というのはいったい何なのだろう、天才なのか、勇敢なのか、案外ただの頭がおかしい人なのかもしれない。白石監督はDVDの特典映像内で「「コワすぎ!」は行き着くところまで行く」と発言しており、ある種の覚悟、自爆テロ精神、スネ夫を殺してぼくも死ぬ的な肚の据わりようを感じさせる。 同時に、フェイクドキュメンタリーというジャンルの現在の到達点がお手軽に体感できるのも楽しい。これは監督が国内外を問わず同ジャンル作品や別ジャンル作品から面白いものを臆面もなくパクりまくっているからで、元ネタを推測するのも面白く、いかにも「今」のエンターテインメントだなあと思う。「今、面白いもの」は今、観なくては意味がないんだと痛感した。
ある芸人は「ブレイクとは、バカに見つかること」と言った。一部の目利きの間で楽しまれてきた「コワすぎ!」シリーズが、ついにオレ様ちゃんというバカの目に触れるところまで来たわけだ。文学でもマンガでも映画でも、エロDVDでもいい、あらゆるジャンルの中には多くの才能が眠っていて、中でも互換不可能な才能だけが「バカに見つかる」壁を突破して世間に躍り出てくる。オレはマッスル坂井のなんとも形容しがたい才能に驚かされたし、たとえば『クレヨンしんちゃん』のアニメから原恵一という才能が出てくるなんて、誰が予想できただろうか。そんな突破の瞬間を同時代人として体感できるのは、本当に嬉しいことだと思うのです。だから皆さん「コワすぎ!」観ましょう。行こうぜ! ホラー映画の向こう側! 汗ばむ夢の切符を握りしめろ!
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