[コメント] 裁き(2014/インド)
「何度見ても発見がある」などというのは映画に対する賛評の常套句ともなっているが、それは、したがって、この作品にこそ極めてよく該当するだろう。しかしこの自然で見応えに富んだ演技群は、ぞんざいに搔き集められたエキストラには決して不可能の芸当だ。彼らはみな演出意図をよく呑み込んだ芝居の熟練者であったか、あるいは監督・助監督がよほど入念な演技指導を全員に施したか、いずれか、もしくはその両方であったに違いない。
さて、そのような次第で作劇的にも撮影的にも特権的な主人公を持たない映画ではあるが、一方で老歌手ヴィーラー・サーティダルが主演者のひとりであることも疑いない。この男の堂々たる威風の佇まいが実に格好よく、歌唱パフォーマンスにおけるアジテータぶりにも目を瞠るものがある。下水清掃人の死が「歌に唆されたことによる自死である」と解釈する公権力を、映画はまったく馬鹿げた不条理と見做しているだろうことは云うまでもないが、しかし彼の発散する強烈なアウラがために、万にひとつの可能性として「やはりサーティダルの煽動によって自死に及んだのではないかしら?」とも思えてしまう。あるいはこれは演出家としては意図せざるところだったのかもしれないが、私にとってはこの映画の大きな美点だ。
関連して、この音楽がまた格好いい。歌詞からすればある種のメッセージソング、プロテストソングと云うべきだろうが、音楽のジャンルとしてはいずこに分類されるのだろうか。純然たる民謡なのか、インドなりのポピュラーミュージックの要素も加わっているのか。私の貧しい音楽知識からすると、地理的な近さのためも当然あるだろうが、ヌスラット・ファテ・アリ・ハーンらに代表されるカッワーリーに通ずるものを感じる。メインヴォーカルの強靭さ、積極的にハーモニーは構成しないがメインヴォーカルの間隙をメロディアスに補完して煽動性を高めるコーラスワーク、簡素に始まりながら次第に複雑に絡み合ってトランシーにヴォルティッジを上昇させていく民族楽器のサウンド、などの諸点において。
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