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[コメント] 裁き(2014/インド)

この映画に主人公はいない。街の「たたずまい」と下級裁判所の「ありよう」と集う人々の「暮らしぶり」の向こうに透けて見える気配が主役だ。おそらくムンバイの人々は、この気配に気づかず日々をやり過ごしているのだろう。気配とは階級制の「なごり」のことだ。
ぽんしゅう

平穏に見えるムンバイの街と人々から漂う気配。

寺子屋のような民間学校に集う子供たちの教師は、過激な歌詞で民衆を啓蒙・先導する民謡歌手だ。下水清掃人は未整備な労働環境のもとでの無知な就労を常とし、その妻は自分の正確な年齢を知らない。報酬目的で裁判所の証人台に立つプロの証言屋と結託する警察。

自家用車を駆けて夜のクラブに通う独身の人権派弁護士の両親は、息子の疎遠に嫌味を言いつつ彼の嫁取りを案じる。ひたすら被告人を有罪にするという職業意識に従順な女性検察官は、小学生の子どもの学童保育所(?)への送り迎えを地道にこなす良き母であり、決して立派とは言い難い狭い家の狭い台所に立つ。

そんな労働者階級と中産階級の間を飛び交う英語とヒンドゥー語。最新の海外情報やIT企業での就労を話題にしながら、子供の発達不全の解決策として「改名」がもたらす効果を説く因習社会のギャップ。

私のカースト制度についての知識は学校で習ったことがすべてだ。今のインド社会の状況など皆目分からない。現在のインドでは、すでにカーストによる露骨な差別はなくなっていると何かで読んだことがある。一方、人々の意識や風習には、今でもしっかりと階級意識が存在していると聞いたこともある。どちらが正しいのか私には分からない。

もしかするとインドの人たちにも、現在の日常生活のなかの「カースト」のありようがどうなっているのか分からないのかもしれない。若干27歳の新鋭チャイタニヤ・タームハネー監督は、そんな現在のインド社会にこびり付いた格差の「なごり」を気配として画面にじんわりと写しだす。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)irodori[*] 3819695[*]

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