[コメント] 愚行録(2016/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
田中武志(妻夫木聡)が田向一家惨殺事件を再取材し出したのは単なる偶然だったのだろうか。
もしかすると妹・光子(満島ひかり)が犯人なのではないかと思い至り、その周辺情報を嗅ぎまわったのではないか。
そして、唯一妹の名前を出してきた宮村淳子(臼田あさ美)を撲殺したのではないか、と勝手な想像をしてしまう。
武志は冒頭バスで席を譲れと言われた男にあてつけるように身障者の振りをしてバスを降りるほどの狡猾な男であることが描写されている。
単に妹が軽率だった・輪姦されたと言われただけで激昂してしまうタイプの人間ではないと思わせる何かがある。
(ただ、どの時点で妹が犯人だと気づいたのかは疑問だ。
もし最初から妹が犯人だとわかっていたのであれば、妹と面識のない田向浩樹側の知人に当たる必要性がないからだ。)
また、映像表現で父親からの性的虐待や、大学の内部進学の男たちによって輪姦されたことを、エロティックな描写は全く用いずに、語り部の台詞とたくさんの手で光子が覆われていくという不気味な描写だけで「そうだったであろう」事実として想像させる手腕は物凄い力量だと感じた。
個人的には、田向一家惨殺の犯人が返り血をシャワーで洗い流すシルエットが妙に男性っぽかったので、真犯人は女性ではないかと邪推して僕は観賞しており、その流れの中で光子の名前が文應大学に進学していたと出てきた時に確信した。
が、千尋の父親の方は輪姦されたときにできた子供で、父親は誰だかわからないまま産んだのでは、と想像していたので、兄の武志との間の子供だと明かされた時には吐き気を催した。
が、考えてみれば、父親は出て行き、母親が再婚するまでの母子家庭の頃、恐らく母親は光子を拒絶し、光子は武志しか頼る人がいなかったのだ。
そうなってもおかしくない関係だったと言えよう。
ひとつだけ腑に落ちない点があるとしたら、光子が文應大学に進学する経済的余裕が田中家にあったのだろうか、という点だけである。
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追記:観賞後、原作に興味を持って貫井徳郎の愚考録を読んだ。
原作では、兄の存在は最後まで匿され、映画のように兄=インタビュアーの図式が最終章まで判らない仕掛けになっていた。 兄は妹の罪も知っており、妹に繋がる証言者の口封じと殺された田向夫妻がいかに殺されてもいいような人物かを知るためにインタビューをしていたようである。 映画では「もしかしたら......」とレヴューしたが、原作ではそのことが明確に示されていた。
また、兄妹の祖父が裕福だったため、光子が慶應(映画では文應)に進学できたことも書かれていた。
また宮村はナイフで通り魔的に武志に早々に殺され、尾形が罪を着せられることもない。
光子の子は武志も自分と光子の間の子だと認識している様子。
ただ、インタビュアー不在の形式で物語が進むため、武志の描写は一切なく名前すらない。
この点が映画化不可能と言われていた所以なのかもしれない。
だとしたら、この映画の脚本は武志という男を名づけ、画面に登場させてなおかつ原作のトリックを両立させている優れた作品だと言えよう。
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