[コメント] 君の名は。(2016/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
前半、婆ちゃんが出てきて「結び」について語ります。
結び(ムスビ)はムスヒであり日本古来の精神なんだというのは明治の国学者の折口信夫(1887-1953)が唱えた説で、ムスビ=ムスヒは「古事記」の造化の三神(最初に誕生した三番目までの神々で創造の源となる神々)のうちの二番目と三番目の神さまである「タカミムスヒ(高御産巣日)」と「カムムスヒ(神産巣日)」のムスヒのことを指しています。ちなみに、一番最初に誕生した神さまは「アメノミナカヌシ(天之御中主)」で、天に中心というものをつくる神さまです。国生みで有名なイザナギ・イザナミはそのずーっとあとに誕生してくる神々です。
ところが、現在の学説では、「ムスヒ」と「ムスビ」は語源的に結びつかず、ムスヒはムス+ヒで、ムスは「産ムス」で苔むすなどのむす、つまり生成のことだと言われています。ヒは、「霊」説と「日」説とで決着がついていませんが、ムスヒ=「結び」説は、今では否定されちゃっているのです。つまり、婆ちゃんが語るのは、とうに葬り去られてしまった親父ギャグ的俗説であって、ちょっと知識のある人は萎えちゃうし、知らない人には俗説を撒き散らす害悪でしかないんです。
エヴァが正統派の基督教に対しグノーシスを持ってきたのとは、俗説であることは同じでも、深さが全然違います。「君の名は。」は、イエスはYESの事だよと言ってるレベルです。
これが例えば婆ちゃんが、「ムスヒはムス・ヒでヒは紐のこと。ムスは創造を意味し、紐(ヒ)は宇宙そのものじゃから、組み紐は宇宙の真の姿をあらわしちょるんじゃ。ひとつに思える宇宙は、実はいくつもある糸のような宇宙の一本一本が明確な意図のもとに絡み合って、いまわしらがいる宇宙の現在つまり組み紐になっとるんじゃよ。」とかなんとか新説をかましてくれていれば、フィクションとして「攻殻機動隊2」(講談社)レベルの深みが出たと思うのにー。本気度が足りなくてああ腹が立つ。
それと、口嚙み酒。これは、1200年ぶりの彗星飛来の話しのキーにするには時代性がなさすぎる。というのも、口嚙み酒が古文書に出てくるのは鎌倉時代の「塵袋」からで、日本酒(清酒)の作り方が書いてある「延喜式」が書かれたのが平安時代だから、口嚙み酒が日本酒のルーツなわけはないのです。「古事記」には清酒しか出てこないし(八岐大蛇ががぶ飲みするほどの口嚙み酒を用意できるわけないよね)。まあ、つまり、なんだ、口嚙み酒はフェティッシュな意味しかこの映画ではないんだよねー。体液交換の比喩なのかな。でも、それって必要か?だって、交換した後、何にも産まれてこないんだぜ、この映画の脚本では。
もうひとつ。水辺でこっから向こうはあの世って、そりゃ仏教だ。彼岸此岸。神道なら坂だっちゅーの。
とまあ、神道ギミックへの考察が超おざなり。結局、巫女さんのコスプレを見せたかっただけなんだろうなあ。
もちろんそれでもいいんだけど、その妄想を必死こいてそれなりに理論武装した跡が見えないからエヴァや攻殻のように大の大人が口角泡を飛ばして楽しむような作品にはなっていない。もったいないなあ。
でもまあ、ピュアハートな二人の出会いの物語は楽しめた。絵も綺麗だったし、主役二人の熱演は素晴らしかった。SF作品としてじゃなかったら満足度高かったです。
ところで、RADWIMPSの「前前前世」ってADAM atのアルバム「CLOCK TOWER」2曲目の「EDENA88」に超そっくりなんですよ(Amazon primeとかAPPLE MUSIC等で聴けます)。RAD好きな人はぜひこちらも。
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