[コメント] さよなら歌舞伎町(2014/日)
規則や付き合いに縛られた日々、本音だけで過ごせればどんなに楽だろうと人は夢想する。しかし、皆が本音むき出し対峙する関係など、いたく居心地が悪いに違いない。思わず露呈した本音が吹き溜まり、摩擦熱を発し、触媒となって変化を生む異空間、ラブホテル。
一流ホテル勤めだと偽る徹(染谷将太)と、仲間を残して自分だけデビューはできないと語る沙耶(前田敦子)。現実の厳しさに気付きながら本音を吐けない若者は、互いに踏み越えられないホテルの扉をはさんで互いの本音と対峙する。そして、妹(樋井明日香)が語る、東北の被災者が「生活」することの本音をまえに、兄の徹のやわで自分本位な本音は非力を呈する。
互いに相手を傷つけまいと、出稼ぎ者としての本音を秘密というオブラートにくるんで、結果、裏切りあった韓国人カップル(イ・ウヌ/ロイ)の傷は、本音を吐露し合うことでしか癒せない。一方、家出娘(我妻三輪子)の実直で無防備なな本音は、風俗嬢スカウトマン(忍成修吾)の虚飾を氷解させ「マジ」な本音をむき出しにさせる。
警察の不倫カップルの上司(宮崎吐夢)と部下(河井青葉)が、容疑者をまえにしてみせる本音の矛盾は、そのまま「世間」をおおう本音と建前の露呈であり、いつしか容疑者カップル(松重豊/南果歩)に加担している我々観客の「気分」こそが、「世間」の権威の煩わしさに対する本音なのだ。
人が最も求めてやまず、されど最も厄介な「本音」。そんな心根の機微を起爆剤にして「変化」に置換する触媒装置としてのラブホテル。そのアイディアに得心する。皆それぞれの「さようなら」を推進力にして、その先に向かうのだ。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (2 人) | [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。